何で鳥なんだろう?




は?




突然のJの発言に四人が目を点にした。





++あんなのがイメージキャラクター?++





 世界グランプリはチーム戦。
 ただ走り続けるだけが練習じゃない。時にはテーブルを囲んで作戦を話し合うことも重要なことの一つだ。
 そして設けられたミーティングの時間。今日も土屋研究所のコースルームの片隅で僕達五人はジュースを片手にミーティングを開始した。



 最初はまだ真面目だったんだよね。
 僕は目の前の惨状を見てはぁ、っと大きく溜息をもらした。
 ちょっと前までは確かに真剣に先日の試合を検討していた。
 だけど15分くらいが経過して、一通り各が個人的に反省を済ませると皆の集中力が途切れ始めた。
 ああ、やっぱり。
 Jは経験上そろそろだろうな、とは思っていた。そしてそれは反省会に一番熱心な烈がジュースを補充するために中座した瞬間、決定的なものとなった。
 あまりじっくり考えることが得意でない豪君と次郎丸君の二人の興味は、とうに今日の差し入れである彦佐さん特製スコーンへと移っており、視線はそこに釘付けになっている。まるで最初に逸らした方が負けとでも言わんばかりの勢いだ。
 リョウ君はそれを我関せず、とマシンの手入れを始めているし、藤吉君は巻き込まれるのが嫌なのか見て見ぬフリをし、優雅に紅茶でティータイムを楽しんでいる。
 とりあえず僕だけでも真面目にやっておかないと。
 僕は一人手元のデータ表に目を落とした。
 書き込みやすいよう参加チームごとに分けて作成したファイル。表紙にはチーム名とそれを象徴したイメージキャラクターが記されている。
 よく考えてみると、このキャラクターって誰が考えたんだろう?
 そして場面は冒頭へと戻る。



「J君、いきなり何なんでゲスか?」
 一早い回復を見せた藤吉君が、まさに稲妻の如く扇子を突きつけた。
「あ、ごめん。声に出すつもりはなかったんだけど」
「で、何が鳥なんだ?」
「僕達のイメージキャラクターだよ。アストロレンジャーズのロケットとか、アイゼンヴォルフが鉄の狼とか、クールカリビアンズの椰子の実とかはわかるけど、僕らのはどうしてかなって」
 僕は何気なく思っただけだったんだけど、皆はミーティング内容よりずっと興味を持ったのか、その話題に食いついてきた。
「言われてみれば何ででげしょうな?」
「チームの名前に鳥は入ってないダス」
「イメージの問題じゃないか?」
「俺達のどの辺が鳥なんだよ?」
「それもそうか。俺達のチームは共通点もないしな」
「イメージもバラバラだよね」
「ワテなら言うまでもなく猿でゲスし、J君はやっぱりイルカ。リョウ君は…どう思うでゲス、J君?」
 そこで詰まった藤吉君は僕の方に水を向けた。
 リョウ君のイメージかぁ。
「山かな」
「それはキャラクターなのか?」
「なんとなくどっしりしてる感じとか自然のイメージでそれらしいと思ったんだけど、おかしかった?」
「いや、別に構わないが。キャラクター?」
「オラは何ダスか?」
 頭を捻るリョウの後ろから顔を覗かせ、期待に目を輝かす次郎丸君をじっと見つめて、いつもの彼を思い浮かべる。
 真っ先に浮かんだのは。
「おたま?」
「オラ、おたまダスか?」
 急速に悲しそうな顔になっていく次郎丸君を見てすごく申し訳ない気持ちになった。
「ご、ごめん。いつもおいしそうなご飯を作ってるイメージがあったから」
「J君の感覚はちょっとずれてるでゲス」
「おたまだってよ!ぎゃはははははは!」
「う、うるさいだす!お前なんかうんこダス!」
「誰がうんこだ!このダスダス野郎!」
 そのまま取っ組み合いの喧嘩に発展した二人に藤吉君が溜息を落とした。
「まるで小型犬同士のいがみ合いでゲス」
「なんだとぉ、藤吉!」
「でも確かにそれっぽいよね」
 甘え上手で、ちょっと凶暴なところは小型犬っぽいかもしれない。
「あー、Jまでそんなこと言う?!」
「事実ダス」
「次郎丸、てめぇも同じ穴のムスカなんだからな」
「それを言うならムジナ、狸のことでゲスよ。ムスカはジブリ映画のキャラクターでゲス。豪君、相変わらずおまぬけでゲスな」
「うるせーっ!」
「オラたぬきじゃないダスー!」
 そのまま三人団子状態になって床に転がってしまった。見かねたリョウ君が引き剥がしにかかりとりあえずほっと一息。



「大体オレが小型犬なら烈兄貴は何なんだよ?」
 一難去ってまた一難。床に座り込みいまだに頬を膨らました豪君に尋ねられて僕は咄嗟には答えられなかった。
 正直言って烈君のイメージを語るのは非常に難しい。
 彼は平時こそ冷静で常識的な考えをもって行動するけれど、時折何らかのスイッチが入って思いもよらない過激さを発揮したり、酷く極端な方向へ走ってしまうことがある。
 その上、人によって態度が大きく違う。例えば僕にはずっと優しいけど、豪君には厳しい。
 接する相手、時と場合によってイメージが自由に変わる烈君の性質には、統一性が見出せない。それすなわちイメージキャラクターが浮かび辛い。
 でもここまで来て烈君だけなしというのは。
 性質が駄目なら興味のあるものとか身近なものでもいい。
 と言えば一番はもちろんソニックだろうけど、それを言ったらおしまいだからそれ以外で。
 烈君の趣味は絵葉書集め。好きな番組は時代劇…………あんまりイメージとしては相応しくなさそうだ。
 うーん。何か他にないだろうか?身近にあって、興味が深くて、烈君らしいもの。
 ………………………………………あ、そうだ。
「ブレット君だ」
「「「「は?」」」」
 ポンと手を打ち皆の方に視線をやると、何故か全員固まっていた。
「どうかした?」
「じぇ、J?今度は何の話だ?」
「え?烈君のイメージキャラクターの話でしょ?」
「そ、そうでゲシたな。で、烈君のイメージキャラクターが何でゲスって?」
「だから、ブレット君」
「ええ?あんなのがイメージキャラクター?」
 再び固まったしまった皆の姿にもしかしてまだ通じてないのだろうか、と口を開こうとしたところを、突然降って湧いた不服そうなアルトソプラノによって遮られた。
「烈君」
「ただいま」
「おかえりなさい。随分遅かったみたいだけど、何かあった?」
「途中で土屋博士に捕まってたから」
 コンビニの袋を提げて帰還した烈君は中からペットボトルを取り出し、紅茶を飲む藤吉君以外のコップに中身を注いで回った。
 まだぎこちないながらもリョウ君と次郎丸君がお礼を言い、とりあえず目の前のジュースを飲み始めた。
 それを見た藤吉君も紅茶に手を伸ばす。時折「平常心、平常心でゲス」と小さく呟いてるけど、何をそんなに動揺してるんだろう?
 そして最後に僕の分のジュースを注ぎ終えた烈君が、いまだ固まってる豪君にコップを差し出した。
「ほら、豪。折角買ってきたのにいらないのか?」
「飲む」
 ようやく動き出した豪君が一気にその中身を飲み干した。
 最後の一口を飲み終え、ダンッとコップを机に叩き付けるとその勢いのままに僕達に突進してきた。
「って烈兄貴!普通にジュース入れてる場合じゃねえ!おい、J!何でそこでブレットが出て来んだよ!」
「え、だって最近気がつくと烈君の隣に潜んでるし。彼と一緒にいるときの烈君は豪君といるときと同じくらい色々な面を見せてるから」
 ならば豪でもよさそうなものだが、家族なら一緒にいるのも、自然なのも普通だから、とJは独特の感覚で、まるでソニックを外すのと同じくらい当たり前にイメージから除外したのだった。
「何だよ!意味わかんねえ!烈兄貴はそれでいいのかよ!」
 その問に、烈君は間髪入れずこう答えた。
「そりゃあ嫌だよ。あんなヒヨコ頭は」
  ・
  ・
  ・
 ヒヨコあたま。

 おい、お前達!

 ひよこ、あたま?

 クールに行こうピヨ!

 っぶ。
 次郎丸君と藤吉君は思いっきり噴き出し、豪君に至っては床を叩いて転げ回る始末だ。
 あのリョウ君でさえも笑いを堪えきれず下を向いて肩を震わせている。
 でも確かに……
 言い得て妙だ。確かにあの黄色い髪色にちょこっとだけ逆立った前髪はどことなーくヒヨコを思わせる。
 レツー、レツー!!
 ピヨピヨピヨピヨ
 愛情を得ようと一生懸命に親鳥に向かって呼びかけているヒヨコ姿は意外と容易にイメージが重なった。
 ブレット君って一般的にはかっこいいはずなのに、どことなく行動や言動がクールになりきれてないせいか、微笑ましいというかコミカルなんだよね。
 そういうところがキャラクター的な発想に結びついたのかもしれない。
「そんなことよりJ君、皆の意見はどうなった?」
 え?
 烈君の突然の現実味を帯びた問いかけに、自分の顔色が一瞬で真っ青になるのがわかった。
 そうだ。自分がいない間にお互いの反省点を話し合って、まとめておいてほしいと頼まれていたのだった。
 非常にまずい。イメージキャラクターの話に夢中になってミーティングのことをすっかり忘れていた。しかも脱線の発端は自分だ。
「ごめん、烈君!」
 勢いよく下げた頭の上から振ってきたのは何故か涼やかな笑い声だった。
「烈君?」
 どういうこと?
「ごめん、ごめん!だってJ君があまりにも悲壮な顔してるからさ……!」
「怒ってないの?」
「ないよ。たまにはただのティータイムも悪くなかったでしょ?」
 これはもしかして…
「最初からそのつもりだった?」
「息抜きも必要だからね。それに反省点は話し合わなくてもレースをすればわかることだし」
 そう言われれば、僕達には走っている最中に自然と相手に注文をつけてしまうところがある。確かに走り終わる頃には、全ての意見が出尽くすことだろう。
「これだけもらっておくね」
 烈君はじっと見つめる僕の目の前を通り過ぎ、テーブルの上の資料をランドセルの中にしまうと「後で話の内容はまとめておくから」と笑った。
 なんだかんだ言っても、やっぱり烈君って僕達のリーダーなんだ。
 機嫌よくジュースを飲み始めた烈君を見て、改めて実感する。
 烈君は僕達を良く見てくれている。一見ビクトリーズは開催当初からバラバラのまま変わっていないようにも見えるけど、実は意外とまとめられているのかもしれない。
 そういえば最初は、一戦毎に一位の人間がリーダーをやる、なんて言ってた。
 そんなこともう皆忘れてる。
 いつの間にか、烈君がリーダーを務めることが普通になってる。
 それは、僕らが気付かない内に、リーダーとしての烈君にお世話になってるってことなのだ。
 そう考えると、ブレット君のことをとやかく言えない。僕らも立派な烈君の雛鳥だ。
「さて、そろそろ練習を再開しようか!」
 烈君の掛け声と共に緩やかな時間が再び慌しく動き出す。
「そうだな。じゃあ俺はコースに異常がないかもう一度チェックしてこよう」
「ありがとう、リョウ君。助かるよ」
 その場合リョウ君はしっかりものの長男かな。
「オラも手伝うダス!兄ちゃん!」
「あ、次郎丸君は博士を呼びに行ってくれないかな?さっき走行中のモーターの調子を見たいって言ってたから」
「しょうがないダスな。どうしてもって言うなら行ってやらないこともないダス!」
「ふふ、どうしても必要なんだ。頼むよ、次郎丸君」
「わかったダス!!」
 次郎丸君はちょっと素直じゃないけど、可愛い末っ子。
「ゴー!全くお前はー!いつまでお菓子食べてんだよ!」
「いってーよ、烈兄貴!耳引っ張んなよー!いいじゃねーかよ、菓子くらい!」
「くらい〜?そんなこと言って、その内食べすぎでブクブクに太ってレース走れないなんてことになっても知らないからな」
「うげっ!お、俺も一回マシンのメンテしてこよ!」
 烈君にやりこめられて、バタバタと慌しく逃げていく豪君は元気な四男。
「烈君、次のレースは誰をメインに走らせるつもりなんでゲスか?スピンコブラはいつでも先陣を切る用意があるでゲスよ?」
「今度のは高速コースだから多分豪とリョウ君に先頭をいってもらうつもりなんだ」
「そ、そうでゲスか……」
「でもその次はテクニカルコースだから藤吉君に頑張ってもらうことになると思う。かなり難解なコースみたいだけどその分走り甲斐はある」
「任せるでゲス!いや〜、烈君はわかってるでゲスな!やっぱりミニ四駆はテクニカルでゲス!」
 扇子を広げてほっほっほっと機嫌よく笑っている藤吉君は、結構お調子者の三男坊。
「じゃあ僕は計器のチェックをしてくるよ」
「僕も手伝うよ」
 僕は…真面目な次男坊ってところかなぁ。
 自分の想像に楽しくなって僕はほんの少し笑った。
「?」
 隣で烈君が怪訝そうな顔をしたけど、これは僕だけのイメージだから秘密。




 皆で一丸となってたった一度の走りのための準備をする。
 準備が終わって皆が烈君の元に集まる。
「さぁ、走ろう!」
 その言葉を合図に僕達はマシンをスタートラインに並べる。
 カウントダウン。
 ゴーサイン。
 そして僕達は走り出す。一周、二週。マシンと共に駆け抜ける。
 僕はこっそり先を行く彼の背中を見つめる。
 どこまでも遠くへ。
 何よりも愛するマシンと共に、ただひたすら先を見つめて駆けて行く。
 まるでその背に翼を宿し、大空へ向かって羽ばたいていくかのように。
「烈君、君のイメージは鳥かもしれないね」
 TRFビクトリーズを導く紅い鳥。
「もうJ君!走りに集中しないと駄目だよ!」
 後どのくらい僕達の巣にいてくれるのだろう。
 烈君は否定するだろうけど、彼がブレット君に惹かれているのは事実だと思う。
 僕は一応それを応援する派だ。
 豪君には悪いけど、烈君は色々と背負い込むタイプだから、それをしっかりと支えられる強い人が傍にいてくれるのは良いことだって思う。
 いつか君は僕らの巣から飛び立ち、彼の元へ飛んで行ってしまうかもしれない。
 だけど。
「おい、J、烈兄貴!なあーにチンタラ走ってんだよ!」
「言ってろよ。すぐ追い抜いてやるさ!ね、J君!」
「うん!」
 だけど、それは今じゃない。
 だってブレット君は確かに完璧だけど、人間性はヒヨコレベルだから烈君を任せるにはもう少し成長してもらわないと。
 まだそう簡単には渡すわけにはいかない。
「行けっ、ソニック!」
 だから、もう少しだけ僕達の親鳥でいてね。
 ね!リーダー!




end.

J君視点。ギャグ台詞のお題なのに、このままではほのぼーのに?なので最後にお約束行ってみましょう!

おまけ

あ、ブレット。
レツ!
(ぴよ)
駆け寄ってくるブレットの声に幻聴がかぶる。
…プッ。
な、何だ?お前ら何を笑ってるんだ!



top