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何気なく見た雑誌にはでかでかとこう書かれていた。 『最近恋人が冷たい!もしや流行の倦怠期?!』 はは、何を馬鹿な 俺はその記事を見たとき鼻で笑った |
| ++倦怠期?!++
恋人になってから10年以上。デュナン統一戦争後はシュラが黙ってフリックの前から姿を消したり、フリックも追うべきか悩んだり色々と思いがすれ違うことの多い二人だった。 しかしハイイースト動乱で再会したシュラはそれなりに結論を出していたのか、追ってきたフリックを咎めず、また逃げることもなかった。取り敢えず和解した二人はそのまま城下町の宿屋で、麗らかな昼下がり。再会した恋人と久しぶりの逢瀬を楽しんでいた。 ……はずだった。 ばりぼり。 出会った頃から姿は寸分も変わっていない恋人は、先からずっと視線を本から上げることもなく、ただ時折テーブルに載っている煎餅に手を伸ばしては口元へ運び、噛み砕くという作業を繰り返していた。 「なぁ、一応聞くが、俺の話聞いてるのか?」 「聞いてる、聞いてる。ビクトールが相変わらずエンと意気投合して、酒場を荒らしまわって困ってるんでしょ」 内容は正しいのだが、視線はやっぱり本の上。そして手も煎餅を掴んだままだ。 はっきり言ってどうでもいい、興味なしというのが滲み出ている。 しかし無視をされているわけではないようなので、とりあえず会話を続ける。 「ビクトールももう年なんだし、少しは控えることを覚えても良いと思うんだが、お前はどう思う?」 「それこそ良い大人なんだから、そのくらいの分別は自分で付けるべきなんじゃない?それで困っても自業自得だし、フリックも放っとけば?」 すげない、容赦のない返答だ。しかも何気に会話を打ち切られた気がするのは気のせいだろうか? 「そ、それもそうか……ああーと、そういえばアキトはどうしたんだ?今日は姿を見かけないが」 それでもフリックはめげずに会話の糸口を探す。 「アキなら宿屋の奥さんの手伝いするって言ってたけど?この時間なら夕食の買い出しだと思うよ。働くのが好きなんだってさ」 「そ、そうなのか…変わってるな」 言われてみればマクドール邸に住んでいた頃も、何くれとなく家事に励む姿を見かけたような。 「だよね、まぁ趣味は人それぞれだよ」 「そうだな……」 か、会話が続かない。戦時中は時間がなくて、あんなにデートに行く時間もないと嘆いていたはずなのに、なんだろう?せっかく二人きりだというのに、この先からの微妙すぎる間は? フリックにとって居心地の悪い沈黙が続く中、そんな空気など諸共しない男、エンは階段を下りてくると平然と二人に話しかけた。 「おお、仲良く読書とは何年たっても仲良しだねぇ。お二人さん」 この状況のどこが仲良しに見えるんだ。 一応付き合いで、宿屋に備え付けられた新聞を広げてはいるが、全く読む気になどなれないフリックの心情も知らず、にやにや笑いで揶揄ったエンだったが、シュラは呆れたように嘆息しただけだった。 「また飲みに行く気?別に良いけど、ちゃんと担当のノルマは果たしてから行ってよね」 ノルマ? はてなマークを飛ばしたフリックだったが、エンには通じたようだ。 「わかってるって。ちゃんと洗濯したやつは取り込んどいたぞ」 どうやら日常的な家事は三人の間で当番制にしているらしかった。何気なく聞いていたフリックだったが、次の言葉には思わず耳を止めた。 「お前のパンツも部屋に放り込んどいたから、さっさと仕舞っとけよ」 ピクリ フリックの肩が軽く揺れた。 「んー、ならよし。あんまり遅く帰ってきて宿屋の人に迷惑かけないように」 動揺するフリックを他所にシュラは淡々と会話を進める。 「おう、今日も見事に勝ってビクトールに奢らせてみせるぜ!」 「飲み比べはいいけど、ギャンブルだけはやらないでよ」 まるでパチスロ・アルコール好きの夫としっかりものの妻のような会話である。 たっぷり三拍の間を置き、フリックはようやく最も気になった部分をシュラに詰め寄った。 「お前、何ってものをあいつに洗わせてるんだ?!」 は?? しかし当のシュラやエンは何を怒っているのだと、揃って不思議そうに首を傾げた。 「パンツがどうかしたの?」 「何かさぁ、俺、旦那の知らないとこで奥さんの下着を洗濯したこと責められてる間男みたいじゃね?」 フリックの心境は正にそんな感じである。 「へぇ、そういう心配。けど男同士なんだし、フリックだってビクトールのを洗うことくらいあるでしょ」 「俺はあいつのパンツなんぞ死んでも洗わん!…ってそういう問題じゃなくて!無防備過ぎると思わないのか?!」 「無防備って……おいおい」 三人が旅して何年目にしてやっとの発言。 仮にも恋人なのに放っておかれて、おまけに別の男達と旅に出られた男の哀れな心情も理解できないではないが。 今更すぎるだろう。 とエンは思った。 しかもパンツでその事実に気付くとか………ブッ!ありえねー! 所詮他人事だったので、どうでもいいことにウケていた。 一方、エンが笑いを堪えている間に二人の言い合いは徐々にヒートアップしつつあった。 「ああ、もうっ!!下手な勘ぐりは止めてよね、鬱陶しい!!!」 シュラは最初こそ「くだらない」とフリックの言い分を軽く聞き流していたが、「大体あの時だって」うんぬんかんぬん、とこれまでのあまり思い出したくない記憶まで色々蒸し返され、疑惑の目を向けてくるフリックに、いい加減黙っていられなくなったのか、ブチッとキレた。 ついに椅子を蹴倒して、応戦を始める。 「別に疑うとかそういうことを言ってるんじゃないだろ!」 「じゃあ何!?」 「好きな相手の心配して何が悪いんだ!!」 「…………………はぁ?」 わかりきっていることでも、改めて告白を口にするのはかなり勇気がいる。 倦怠期云々の記事が頭をチラついた。 自分でもいい年してこんなことを叫ぶのはどうかと思う。 がしかし、相手の頑固すぎる性質を思えば、険悪になった勢いのままに別れ話に発展することも充分に有り得る。 それを思えば、嫉妬から来る八つ当たりより、本音でいった方がいいと思ったのだ。 なのに、この反応はどうだろう。 はぁ?って。 せめてもうちょっと言いようがあるだろう。 昔は頬を薄く染めたり、棍で殴りかかってきたり、可愛い反応(?)を見せて、その初心さに困ったものだが、今となってはそれが懐かしい。 本当に、懐かしい。 その表情から何を考えているか悟ったのだろう。取り敢えず怒りを収めたシュラは、落ち着けるように机に置いてあった、すでに冷めたお茶を飲み干して言った。 「…あのねぇフリック。僕ももう三十路越えてるんだよ。いつまでも二十前後の頃の反応を求められても困るんだけど。大体それはそれでおかしいと思わない?」 「お前に限っては思わない」 「そんなこと真顔で断言されてもね」 シュラも別にフリックに対しての愛情が薄れたわけではない。ただ一緒にいるだけで満足していたシュラには、フリックの不満が理解できなかっただけなのだ。 ここに来て漸くフリックが、もっと相手をしてほしがっていたことに気付いたシュラは実は素直に嬉しかった。 しかしどうしても一つわからないことがあった。 「一つだけ聞きたいんだけど、フリックはパンツ一枚で何を心配してるわけ?」 「そ、それは……」 フリックは目に見えてうろたえている。しかしシュラは答えを聞くまで納得しそうにない。 フリックが諦めてシュラを手招き、耳打ちする。 ……………………………… 「っっ逝ね!!!このエロおやじがっっ!!!」 案の定、シュラの棍による渾身の一撃が炸裂し、それが見事に入ったフリックはその場に沈んだ。 「で、エンはいつまで笑ってんの」 「へ?」 ここでオレに振るか? 「酒、飲みに行くんだろう」 「お、おう」 やべえ。怒りのあまり、昔の口調に戻ってやがる。 エンは背筋に嫌な汗が伝うのを感じた。 「もしかして…お前も行く気か……?」 「今日は僕が勝つ」 明日の酒と金、残ると思うなよ。 シュラはそのまま肩を怒らせながらのしのしと宿を出て行ってしまった。 「とんだとばっちりだぜ」 嫌な予感は的中した。 シュラは普段あまり酒を飲まない。が、決して弱いわけでなくむしろ―― 「勘弁しろよ……」 エンは明日の酒場と己とビクトールの顛末を思い、薄ら寒い気持ちになりながら、足取り重くシュラの後を追っていく。 それでも、シュラと共にいられるだけマシと言えば、マシだったのかもしれない。 一方フリックは一人、宿屋のリビングにポツンと残された。 シュラは相当に、怒っていた。 おそらく、しばらくは口も利いてもらえないだろう。 しかしダメージはそれだけではない。 エロおやじ。 少なくともあの頃は変態とは言われても、エロおやじなどと言われたことはなかった。 意味は大して変わらないのに、より悲しい気持ちがするのは何故だろう? フリックは月日の無常さに密かに涙した。 |
| 付き合いも長くなれば色々と免疫が付く 倦怠期が訪れるのは自然な流れというもの 余計なことをして神経を逆撫でするのは逆効果である しかし必死にその雑誌にて解決策を探すフリックは 当分それに気付きそうにもなかった |
| end. |
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何を書いてんだ、私は。フリックに素気無い態度を取る坊ちゃんを書きたくなっただけなのに。後、フリ坊作品を増やそうという目論み込みで(笑)パンツネタは気にしないで下さひ…(汗) 三人で旅してる間に段々神経図太くなってきた坊ちゃん。戦時中の繊細な坊も好きだけど、こういうのもいいなぁのはずが、お粗末でした。あ、もちろん請求書は翌日フリックの元にも行きました。(2008.2.26 改稿) |