主のいない部屋の机にポツンと置かれた一枚の紙切れ。

『遺跡発見!盗賊の血が騒ぐぜ!』


何だ、これは?



 その日の晩、炎の運び手本拠地に一発の雷が落ちた。





++どうしようもない++





 ハルモニアとの戦いも中盤へと差し掛かり、戦況が停滞し始めたこの頃、炎の運び手連合軍の間では少々のんびりとした雰囲気が流れていた。
 だがその幹部であるゲドはこの状況を決して楽観視していなかった。
 むしろ大きな動きのない現状が嵐の前の静けさのように思え、何らかの隙を狙われているのではないかと落ち着かなかった。
 そのため今日も今日とて、自分の部下数名を引き連れて、情報収集に励み、その結果を報告するためエンの執務室に出向いたわけなのだが、そこに残されていたのはあの手紙ともいえないメモ一つ。


「今帰ったぞ―――っ」
 その上、その晩遅くに鼻歌交じりに戦利品を抱えて陽気に挨拶されれば、雷の一つも落としたくなるというもの。
「全くお前は自分の立場を……エン、人の話を聞いているか?」
「だから聞いてるって」
 大の男を捕まえて、真夜中に延々説教などゲドだってしたくはない。しかし、ゲドから落とされた雷の直撃を紙一重でかわしたものの、気に入りの靴のつま先部分が焦げたことに残念そうな顔をしているエンの様子はとても反省して人の話を聞いているようには見えなかった。
「本当に聞いていたのなら、自分の何が悪かったのか、今ここで言ってみろ」
「……え?あーと、ゲドの分の土産を持って帰らなかったから、とか……?」
 へらりと笑ってその男はそうのたまった。
 ……………………





 そして二度目の雷は落とされた。今度は見事直撃し、部屋には黒コゲの物体が転がった。




 あれから一週間。しかし、エンに応えた様子は無く、相も変わらず行方を眩ませている。
「ワイアット、あの男はなんとかならないのか?」
 自身が真の雷の紋章を有しており、結びつきの強い他の五行の紋章の内、あの男が真の炎の紋章を、そして目の前のこの男が真の水の紋章を手にしたことから、ほぼなりゆきで共に戦うような状況になってしまったわけだが、これまで幾度もの死線を潜り抜けた仲である。
 情も湧くし、共に勝利し、この地を守ろうという気概も芽生えるのは当然であろう。
 しかし、肝心の勧誘してきた男自身があんなことでいいのだろうか、ゲドは切にそう思った。
 そしてあんな男と長らく友をやっているこの男が一体どう感じているのか、気になったのだが。
「あの放浪なぁ……あれは昔からのあいつの性癖みたいなもんだし、今更言ってもどうにもならんだろうな」
 ワイアットはあっさりとそう答えた。
「だが放っておいていいというわけでもあるまい」
「まぁでも、そんな自由なあいつのところに惹かれて集まってくる奴らは多いんだし、どうにもならんことに労力を使うのもなぁ…心労がたまるだけだぞ、ゲド」
 余計なお世話である。というかもう心労など十分溜まっている。気にせずにいられないから『気になる』と言うのだ。
 全く参考にはならなかったが、とりあえず話は聞いてもらったため、礼を言ってその場を後にした。



 後、何とかできる可能性があるのは……。
 ゲドは即座に思い浮かんだエンを御せる唯一の女性の下へ歩みを向けた。
 そして先と同じように自分の考えを話した上で、ワイアットと同じ質問を投げかけた。
「そうね、あなたの言うことも間違ってはいないわね」
 正直驚いた。尋ねておいてなんだが、先程のワイアットの感じから見て、彼女が自分の考えに賛同の意を示してくれるとは思っていなかったからだ。
「それならば話は早い。エンにむやみな単独行動は止めるよう言ってくれないか?」
「それはできないわ」
 しかし今度帰ってきたのは拒否の言葉だった。
「何故だ?」
「私ではエンを止めることはできないから」
 エンがサナに深い愛情を持っているのは明白な事実である。
 普段から暇さえあれば遠乗りに連れて行ったり、共に買い物をしたり仲睦まじいことこの上ない。今回の遺跡探索でもサナへの土産としてよくわからない装飾品を大量に持ち帰っていたようだった。
 それだけ尽くされて愛されている自覚がないほどサナは鈍い女ではない。なのに、説得する自信がないというのだろうか?
「お前にできなければ誰ができると言うのだ?」
 サナは静かに微笑を浮かべ、首を緩く横に振った。
「今のところ誰も。本人も持て余してるんじゃないかしら」
 つまり結局彼女もワイアットと同じということだ。要するに放っておけと。
 期待した分落胆も大きかった。ゲドは一つため息を落とした。
「だがあのお気楽さが原因で何か取り返しのつかないことが起こったらどうする?」
「ええ、それは考えなければいけないことよ。だからあなたの言うことを否定しているわけではないの」
 ならば一応でも説得してほしいのだが。
「ただ、彼はあなたが考えているよりずっと仲間のことを大切思ってる。意外と情に篤くて、とても優しい人よ」



 結局のところ、否定されたのか、肯定されたのか、それとも単に惚気られただけなのかさっぱりわからない。
 わからないが、やはり二人ともエンに甘すぎる。
 ゲドだって二人の言を否定するわけではないのだ。実際、エンは仲間に対して、多少気安す過ぎるきらいがあるが、どこにも属さないからこその豪胆さに多くの者達の支持を集めている。そのおかげで随分組織としても大きくなった。本拠地の周りに人が集まり、物資が充実してきているのもよいことだとは思う。
 しかし人が増えるということは、その分だけ色々な思惑があるということだ。尚且つ今は敵が仕掛けてこない分、内部でもある種のフラストレーションが溜まってきているのか、小さな諍いが増えた気がする。
 それを大事の前の小事として片付けることは簡単だが、その判断は後に内部分裂という致命的な結果を生みかねない危険なことだということをゲドは知っている。
 だからこそ、その結束を揺ぎ無いものとするためにも、リーダーであるエンが目を配り、皆の中心に構えていることが必要なのだ。
 だというのに奴ときたら、この小康状態を『渡りに船』と言わんばかりにあっちへふらふら、こっちへふらふらと仕事をするどころか、ちっとも一所にじっとしていない。
 もし、あいつがいないときに敵の大隊が攻めてきたらどうするつもりなんだ?


「ゲド殿!!!」
 そのとき、一人の男が足を縺れさせながら、こちらへ駆けてきた。その声音や表情には隠しきれない焦りの色が見える。
 まさか―――
「どうした?」
「大変です!ハルモニアが……本隊を率いて、北の草原に迫っています!!」
 最悪のタイミングだ……
「本隊だと?これまで奥に引っ込んで出てこなかった奴らが何故突然……」
 ハルモニアは自国に傷がつくことを極端に嫌う。だから本隊が攻め上ってくることなど今まで無かった。それを敢えてぶつけて来るということは――何か余程の秘策があるのか?
「エン殿にもお知らせしないと…今、どこにおられるのですか?!」
「いや、いい。俺が伝えておく。お前は先にワイアットのところへ伝えに行け」
 わかりました!伝令の青年は素直に頷いて急ぎ足で去っていった。



エンはまだ見つかっていない


小さな衝突でなら、エンがいないことも何度かあった

しかし、本隊のような大きな戦となると――――


早く帰って来い……エン!!


しかしゲドの願いも虚しく、三日後、北の草原にてハルモニアの本隊と相対することになる。



リーダー不在のまま……





ん?ギャグのはずがシリアスに?えと、とりあえずゲドさんとエンさんの関係性についてです。
最初に言うと、この話は坊さん全く出ません。しかも、3の話っていまいちよくわかってないので、過去とかは特に…無謀な試みですな(悩)




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