++炎と坊の一年目〜拠点〜++





炎「そろそろ落ち着く場所を考えねーとな」
坊「そうだな」




炎・坊「……………………………」




パチ、パチ





炎「お前さ」
坊「何だ」
炎「何か案ねえの?」
坊「オレに任せろ!と啖呵を切ったのは誰だ」
炎「いや、まぁ言ったけどな」




焚き火を囲みながら、二人は、いやエンは悩んでいた。
現在、新生トラン共和国から逃亡中。南へ下る街道沿いを旅しながら、村から村を渡り歩き、時にテントで野宿の日々を繰り返していた。
が、そろそろ季節は冬。野宿には、少々厳しい。
炎「お前単に考えるのがめんどくさいんだろ。目標がなくなると途端に怠惰になりやがって」
坊「そういう性質なんだ。正直言って今はあまり気力が湧かないと前にも言った。だからお前が考えてくれるんだろう」
炎「まあな。けどその場合お前の立場ってさー」









坊「言わばヒモだな」
炎「ふざけろ」




坊「僕はいたって真剣だ」
炎「なお悪い!!」





炎「やる気ないにもほどがある!それに逆ならいいが、それは認められねえ」
坊「ほう?」
炎「オレは何もしない駄目男を養う彼女みたいにはなりたくねーの」
坊「じゃあどうしろと?」
炎「住む場所はオレが世話してやる。が、炊事、洗濯、掃除は当番性だ。これだけは譲れねえ」
坊「わかった」
炎「その心は?」
坊「暇で暇で死にそうだ」
炎「よし。とりあえず傷心の身だからと色々世話してやった分、働け。今すぐ」



********



炎「小屋借りたぞ」
坊「随分早かったな」
炎「金を弾んだからな」
坊「そうか」
炎「んじゃ次は買い物だ!まず家具に、調理器具…早めに買い揃えねーとな」
坊「待て」
炎「何だ?」
坊「僕の勘違いかもしれないが」
炎「?」
坊「お前、いつ働いてたんだ?」




坊「…………何故黙る」
炎「いやあ」
坊「それだけの金を、どこから用意したんだ」
炎「怒んねえ?」



〜エンさん、金を調達する〜

お、でけえ城が崩れそうじゃん。
もったいね、もったいね。
金目のもん、たんまりありそうだっつーのに、埋まらせるなんてもったいねえよな。
ここは通りすがりのオレがきっちり有効利用してやろう。
金は天下の回りもの。
金は天下に回してやらんとな。



坊「その『でけえ城』ってのはもしや……」
炎「あ、やっぱ気付いた?」
坊「グレッグミンスターの黄金宮のことか!!!」
炎「わああああ、悪かった!悪かったよ!!盗賊の本能だったんだ!」
坊「新生国の貴重な復興費用をお前は……」
炎「すまん」
坊「バルバロッサ様…父上…」





坊「ん?待てよ」
炎「どうした?」
坊「よくよく考えてみれば」
炎「ふんふん」
坊「僕は」
炎「ほーほー」
坊「近衛隊として働いた分の給料をまだもらってなかった」
炎「うおい」
坊「向こうが不当に解雇して、二年も支払い延滞してたんだから利子を入れればこれくらいもらう権利はあるだろう」
炎「いや、いくらなんでも取りすぎだろ」
坊「お前が言うな。というか一体いくら取ったんだ」
炎「この冬を越せるくらいだな」
坊「火事場泥棒でそこまで取るとは」
炎「オレの腕前をなめるなよ」
坊「長く生きると皆こんな図太くなるんだろうか」





後日。
炎「ここ結構物価安いから金あまりそうだぞ。こっそり返しとくか?」
坊「いやいい。父上の忌慰金ももらってなかったことを思い出した」
炎「…………」
坊「これで帳尻は合う」
炎「……お前って意外とがめついのな」





お前も充分図太い。




end.

拍手再録。坊ちゃんは目標があって初めて、やる気を出すタイプです。なのでやるべきことがないと、結構色々適当みたいです。戦後直後で燃え尽きてるので、テンションも『マツロワヌ〜』に比べ、大分低め。本当にヒモですよ。これじゃあ。まぁでもエンさんとのこの暮らしのおかげで、坊ちゃんは金銭感覚とかその他諸々しっかり確立させていくのでありました。








++炎と坊の一年目〜料理〜++





炎「そろそろ飯の時間だな」
坊「そうだな」




炎・坊「……………………………」




カチャ、カチン、コト。





炎「お前さ」
坊「何だ」
炎「さっきから何やってんだ?」
坊「見ればわかるだろう」
炎「いや、さっぱりわからん」




机の上には試験管が五本ほど並び、尋ねられた当人は謎の白い粘液が入ったフラスコを傾け、覗き見ていた。
炎「いや、言いなおそう。お前は一体どんなご大層な実験を始めたんだ?」









坊「料理だ」
炎「ふざけろ」




坊「僕はいたって真剣だ」
炎「なお悪い!!」



********



坊「そんなことを言われても料理は、お前と暮らしてからが始めてなんだ」
炎「ほう?」
坊「どうしていいかわからん」
炎「百歩譲ってマズイ料理を出すのは許そう。が、フライパンや鍋すら出てないのは一体どういうわけだ」
坊「前に親友が『初心者が料理するとき、慣れないものを使うと失敗する』と言っていた」
炎「その心は?」
坊「フライパンや鍋は使ったことが無い。試験管やフラスコの方が使い慣れている」
炎「とりあえずその手に持ったフラスコから手を離せ」



坊「置いたぞ」
炎「そこに座れ」
坊「座ったぞ」
炎「まず念のため聞く」
坊「ああ」
炎「お前の家では料理するとき試験管やフラスコ、あまつさえメスシリンダーなんかを使うことが稀にでもあるのか?」
坊「グレミオはいつもフライパンや鍋、おたまを使用していた」
炎「そうか。そいつはよかった。いいか。よく聞け」
坊「?」
炎「その親友が言った『慣れないものは使うな』という警告は正しい。が、その慣れないものは百パーセント食材もしくは調味料のことだ。間違ってもフライパンや鍋の使用を制限したもんじゃない!!!」




坊「…………薄々は変だと思っていたが」
炎「どう考えても変だろ」
坊「やはり間違っていたか」



〜坊ちゃん的シチューの作り方〜

メスで野菜・肉を切断。
蒸発皿・三脚・アルコールランプで、海水から塩を調合。
皿の代わりに金網をセット、塩を振って、鶏肉の塩焼き、炒め野菜を精製。
乳棒・乳鉢でホワイトペッパーを粉末に。
その他調味料を薬匙・スポイト・メスシリンダーで計量。
それぞれ試験管立てに立てられた試験管へ。
フラスコで沸かした湯にそれらを順々に投入。
ガラス棒で混ぜて完成。



炎「早く気付け」
坊「悪かった」
炎「もういい。今日はこのまま食べるぞ」
坊「ああ」





炎「またちょっと美味いのが複雑だな……」
坊「素直に褒められないのか」
炎「何であのやり方で普通に作れるんだ?」
坊「使ってる材料は同じなんだ。できるものが同じなのは当然だろう」
炎「………………ちょっと待て」
坊「今度は何だ」
炎「お前一昨日のもそれで作ってたのか?」
坊「これ以外の作り方はしたことがない」
炎「馬鹿野郎!!それを早く言え!!!」
坊「上の方の発言でわかると思うが」
炎「オレの馬鹿野郎!なんで何の疑問も持たずに食っちまったんだ!」
坊「何を今更。今日も食べてるし、美味かったんならいいじゃないか」
炎「お前が言うな!!あんな怪しげなもんを、何の覚悟も無くオレは!美味いとか言って!うおおおおおおおおお」
坊「細かい男だな。作り方くらいで」
炎「うるせえ!そこは拘れ!!明日からは絶対に!普通の調理器具で作れ!!!」
坊「…………わかった」





炎「うげえええ」
坊「どうした」
炎「今日はどうやって作った?」
坊「フライパンと鍋とおたまだ」
炎「何で!何で普通に作ったのが!こんなに不味いんだ!!!」
坊「少々とか適量とか、はっきりせんからだ」
炎「馬鹿野郎!お前はもう二度と料理を作るな!!!」





end.

拍手再録。坊ちゃんは決して料理が下手なわけではありません。しっかりとしたレシピがあれば、もしくは自分が作ったことがあれば、大体その通りの味を再現できます。しかし、正確な量と時間がわからない、測れないとき、創作料理に挑戦するとき、なんとなく、適当にそれをやってしまいます。味見をして不味くなったら塩を砂糖で中和しようとします。結果どうにもならなくなり、なんかもうどうでもよくなります。食べれれば言いか。坊ちゃんは不味くても、必要な栄養さえ取れればいいかと思うくらいには物ぐさなようです。そして周りはもちろんその味に耐えられません。悲劇。








++炎と坊の一年目〜話し方〜++





炎「お前さぁ」
坊「何だ」
炎「そのしゃべり方なんとかならねえの?」




炎・坊「……………………………」





坊「そのしゃべり方とは?」
炎「それだ、それ。そのえっらそうな上から目線の、中途半端に畏まったしゃべり方はなんとかならねえのか」
坊「別に実害があるわけじゃあるまいし、いいだろうが」
炎「あるから言ってんだ」
坊「どんな?」
炎「お前気付いてねえの?」




トランより南の自治領区域にある、小さな村に拠点を置いて早一月。村のはずれで小屋を借り、エンがどこぞから掻っ攫ってきた明らかな盗品で生計を立てつつ、シュラは何の問題も無く平穏な日々を過ごしている、と思っていた。
炎「この村で、オレ達がどういう風に見られてるか知ってるか」
坊「知らん」









炎「貴族のボンボンと、雇われたチンピラの護衛だとよ」
坊「結構当たってるんじゃないか?」
炎「ふざけろ」




坊「一部は事実だろう」
炎「なお悪い!!」



********



炎「とにかく、そのイメージを改善する。兄弟もしくは従兄弟くらいにだ」
坊「その心は?」
炎「もう少し子供らしい口調でしゃべれ」



坊「無理だ」
炎「無理ですますな」
坊「僕は生まれて十七年間ずっとこのしゃべり方だ」
炎「マジか」
坊「嘘だ」
炎「おい」
坊「普通に考えればわかる。零歳児がしゃべるわけがないんだから、十七年はまずありえないだろうが。もっとよく考えろ、馬鹿め」
炎「このドアホ。そういうことを聞いてんじゃねぇ。話をそらすな」
坊「…………」
炎「っつーかよく考えたらおまえ、昔はそんなしゃべり方じゃなかったじゃねーか」




坊「…………何故知ってる?」
炎「……!やべっ……オレ今なんか言ったか」
坊「白々しいぞ。さてはお前……」
炎「一回だけ!一回だけだって!!本当見かけただけっ!!お前が「グレミオ〜、どこ行ったの〜」って泣きそうな顔で……」



ドゴオオオオオオッッ

坊「何か言ったか」
炎「イイエ。ナニモ」



坊「ならいい」
炎「あーあ、あんなに可愛かった坊ちゃんは一体どこいっちゃったんだか」
坊「今度は当てる」
炎「よし、落ち着け。忘れるから」
坊「次はない」





炎「まぁでも真剣にこれは問題だぞ。お前って口調を抜いても、如何にも只者じゃありませんオーラが出すぎてるしな」
坊「何だ、それは」
炎「要するに目立ちすぎってこった」
坊「別にそんな気はないが」
炎「気は無くても実際目立ってんの。こんな外れの村では大した問題にはならないけどな、人の集まるとこでは、その手の奴らの格好の的になる。黙って鴨られる気は無いが、騒ぎの拍子に身元を探られるのも困るだろ」
坊「それは外見相応にもっと子供らしくしてろってことか?」
炎「そういうこったな」
坊「しかしそれなら普段からそんなまどろっこしいことをしなくても、いざと言うときだけそういう仮面を被れば問題ないだろう」
炎「駄目だ」
坊「何故?」
炎「お前の場合、ギャップがありすぎる。子供の癖に俺様な印象が強すぎて、忘れられにくい。だから、逆に疑われる」
坊「軍主時代はこれが便利だったんだが」
炎「今ははっきり言って邪魔だ。その纏ってる気迫をどうにかしろ、っつても難しいだろうからな。まずはその口調を何とかしろ。そうすりゃその内、物騒な気配も落ち着いてくるさ」
坊「ふん。一応お前の言い分が正当なものであることはわかった」
炎「で?」
坊「努力はしてみる…よ」
炎「……難しかったら誰か身近にいた奴でも参考にしろ」
坊「そうして、みる…………」





炎「うげえええ」
坊「どうしたの?エン?」
炎「お前、キモイ」
坊「キモイとはひどいね。エンがそうしろって言ったんだよ?」
炎「何で!何で一週間も経たねえ内に!そんな流暢にしゃべれるようになってんだ!!」
坊「軍主時代が長かったから自分でも忘れかけてたけど、僕は元々人をおちょくる為なら口調を変えるくらい日常茶飯事にやってたんだった」
炎「オレは人生の選択を誤ったのか……?」





end.

拍手再録。戦後の話と本編との坊ちゃんの口調の違いの理由。この後、坊ちゃんはずっとこの口調を意識的に心がけたことで、それに慣れていってしまいます。マクドール家の長男としてでなく、軍主としてでもない、普通のシュラとして生きて行く為の第一歩でもあったり。この辺の心情はまたフリックさんと再会したときにでも。ただ心底怒ったりしたときは、ちらりと元の口調に戻っちゃうようですが。




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