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頼む、デートしてくれっ! ああっ? とりあえず殴られた。 |
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++発端〜もう誰にも止められない〜++
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その日学校を終え練習も休みだった烈は、以前からエーリッヒに頼まれていた本を届けるため、インターナショナルスクールの寄宿舎へとやって来ていた。 本を届けた後、「良い紅茶が届いたのでお礼に飲んでいっていただけませんか」というエーリッヒの好意をありがたく受け、なんとも心癒される穏やかな時間を過ごした烈の機嫌はかなり上々だった。 幸せな気分のままに、未だ寄宿舎内の構造に不慣れな烈を気遣い入り口まで案内するエーリッヒと共に世間話に華を咲かせながらのほほんと廊下を歩いていた烈は、突然現れ妙なことを叫ぶ男にたどう対応すべきか判断がつかず取り敢えず咄嗟に殴り飛ばしたのだった。 「レツ、い、いパンチだ……!が、オレは有無を言わさず、横っ面を張り飛ばされるほどのことをした、のか?」 説明不足だったことは反省すべきことだが。 出会い頭に全力で拳を食らうということはあまりない。しかもパーでなく、グー。 「あは、は、ごめん。ついもう条件反射で」 しかし烈を非難している割に、殴られた頬を押さえるブレットの表情は何故か微妙に嬉しそうに見えた(いや一応本気で痛いんですが)。 こいつ、マゾか。 本能の行動から正気に返った烈は、若干そんなブレッドに引いた。 それでも謝罪を忘れない烈は、やっぱり今日も律儀だった。 「謝ることはありませんよ。それが正しい変態撃退法です」 そこに親切なエーリッヒがすかさず援護の手を入れる。 「あ、そっか」 「ハハハ。面白いジョークだな、二人とも。エーリッヒ、レツにこれ以上余計なことを仕込むな。頼むから」 烈の拳が心なしか以前より威力を増しているような気がする。 「付け加えるならば次はもう少し膝のバネを利用し、重心をスムーズにスライド…」などと物騒なアドバイスを繰り出すエーリッヒを見ている限りでは、ブレットの予感はどうやら気のせいではなさそうだ。 真剣に身の危険を感じたブレットは、やめてもらえるよう結構本気で頼んだのだが。 「で、一体いきなりどうしたんですか?」 皮肉にも原因の男はそんなブレッドの誠意を綺麗にスルーしてくれた。 「無視か、まぁわかってたけどな……」 不覚にもちょっと涙が出そうだった。 「昨日、姉さんから手紙が来た」 「へー、ブレット君お姉さんがいたんだ」 「レツ、公式データに家族構成が書いてあるのは知ってるよな?」 「え?だって君の家族とか興味ない」 ぐさっ 烈の正直な言葉の刃は、ブレットのハートにクリティカルヒット。 ブレットは1000HITのダメージを受けた。 「……ふ、なるほど。重要なのはオレ自身ということだな」 「そんなこと言ってない」 しかしどこまでもプラス思考な男はそれくらいではへこたれなかった。もしかしたら彼のHPは一千万ぐらいあるのかもしれない。 「それであなたのお姉さんとデートがどう繋がるんです?」 嫌そうな顔をしている烈を気の毒に思ったエーリッヒが、さっさと話を終わらせてあげようと変わりに一向に進まない話を進めてくれる。 我に返ったブレットも、エーリッヒのその一言でようやくのんびり口説き文句を言っている場合でないことを思い出した。 「そうだ。大変なんだ!その手紙に今週の日曜日本へ行くから恋人を、レツを紹介するようにと書かれていたんだ!」 「何嘘ついてんの?誰が恋人?」 「いやいや。言いたい気持ちはやまやまだが、さすがにそこまで図々しくはないぞ。というかそもそも姉にはレツのことを話したことさえない」 「よく話がわからないんですが」 「まぁ最後まで聞いてくれ。発端はジョーだ。俺があまりに身内と連絡をとろうとしないのを見かねて、変わりに近況報告の手紙を出してくれたらしい」 「ジョーさんが僕らが恋人だなんて根も葉もない嘘をいうとは思えないんだけど」 「ジョーは俺に最近好きな人ができたらしい、という文と写真を添えて送ったんだそうだ」 受け取った姉からの手紙を見て慌てたブレットはとにかく姉の意図を問い質そうと昨夜かけた電話の内容を二人に語り始めた。 『だって恋人ができたんしょう?弟思いの姉が恋人に会ってみたいと思って何が悪いの?』 『レツは恋人じゃない。残念ながらまだ片思いというやつだ』 『あら、隠さなくてもいいのよ』 『隠してるわけじゃないさ』 『照れてるの?』 『照れる必要がない』 『でも本当は付き合ってるんでしょう?』 『そんな嬉しいことあるわけないだろう!…って虚しくなるようなことを叫ばせないでくれ!片思いだと言ってるだろう!何故そうなる!?』 『だって恋とは互いに惹き合うものだもの。誠意は何も言わずとも自然と伝わるもの。貴方が真に慕うなら相手も靡かないはずがないでしょう?』 『はあっ?!』 『心配しなくても私は相手が男の子でも反対したりはしないわ。愛があるならいいじゃないの』 『だから、何故そういう話になるんだ!』 『あら?やっぱり男の子は駄目なの?ということは相手が間違ってるのかしら?もしかして相手はやっぱりジョセフィーヌ嬢の方だったの?』 「何故そこでジョセフィーヌ嬢が出てくるんです?」 「なんでジョーさん?」 あまりにも唐突に登場したアストロレンジャーズ紅一点の女性の名前に、黙って話を聞いていたエーリッヒと烈は思わず同時に合いの手を入れた。 「昔、姉にチームメイトのことを手紙にして送ったことがある。そのとき、ジョーは女性ながらも努力家で優秀な仲間なので気に入っている、というような内容のことを書いた、んだと思う。まぁただの報告だったし、はっきりとは覚えていないが」 「それだけで?」 烈は意外に思った。何かもっとそれらしいエピソードか何かがあるのだろうと思ったのだが。 「それだけで、だ。姉は独自の読解で、それを恋愛感情と捉えたらしい。俺が始めて賞賛を送った女性という事実があったからかもしれないが……」 「なんと言いますか」 エーリッヒも規格外な発想力に、何とも言えない微妙な表情をした。 「姉の思考回路は俺にも理解できん。……と話を戻すぞ」 『オレが好きなのはレツだけだ!』 『なら問題なしね。来週までに相手を誘っておくのよ?』 『何でそう強引なんだ?!人の話をちゃんと聞いてくれ!』 『ちゃんと聞いているじゃない。いつもパーフェクト、パーフェクトとうるさいブレット。恋人をデートに誘うくらい何てことないわよね?』 「それでOKしちゃったわけ?」 「仕方なかったんだ」 珍しくも力なく項垂れるブレットの話をまとめるとつまりはこういうことだ。 姉は元々ブレットより遥かに恋多き人であり、彼女は狙った獲物は逃さな……ではなく、今まで恋をした男は全員自分に靡き、失恋というものをしたことがないのだと言う。 彼女の言い分としては本気なら相手が振り向かないはずはないので、脈がない=本気ではないからという図式になってしまうらしい。そもそも片思いという概念自体彼女には存在していない。 つまり烈という子には脈がない=ブレット本気ではない=ブレットはチームの仲間も好き=仲間達もブレットを慕っている=実は本命はそっち、ということになるようだった。 「彼女は未だオレとジョーの関係を疑っている」 「でもジョーさんはリョウ君が好きなんじゃないの?」 「その通りだ。だが姉はそんなことは知らないし、知ったとしたらそれはそれで恐ろしいことになる」 「恐ろしいことですか?」 「姉は性別を気にしない。仲間内でジョーが却下されるということは鉾先が残りのメンバーに行く可能性が高くなるということだ」 …………………………………………………沈黙。 「それは、怖いね」 「というか痛いですね。色々……」 精神に負うダメージを鑑みて二人は思わず浮かびそうになったリアルな想像を無理やりちょん切った。 「あー、しかしいくらなんでもその図式には少々無理があるのではないですか?」 「彼女はマルガレータの姿をした中身トウキチ・ミクニの妹とジャネットを足したような人間だ」 マルガレータの穏やかな外見で、中身チイコ並の思い込みの激しさと、ジャネットの女王様的プレッシャーを兼ね備えた女性。 どんな無理でも素敵な笑顔でごり押しされそうだ。 「頼む!レツ!今回はオレだけでなく、アストロレンジャーズ全体の未来がかかってるんだ!」 ブレットは烈以外の男など死んでも御免だし、仲間の男連中だってそんな不名誉な嫌疑はかけられるだけで精神崩壊を起こすだろう。 だからと言って相手役をジョーに頼んで、もし何かの拍子にリョウにあらぬ誤解を抱かせるような結果になれば、ジョー自身が破壊神と化すかもしれない。 「でもお姉さんに会って紹介とかなったら、会話もしなくちゃいけなくなるわけだし」 いつものふざけた調子なら有無を言わさず却下するところだが、今日のブレットにはそんな雰囲気は微塵もなく、必死に頼み込むその姿にはさすがの烈も心を動かされる。 しかしやはり嫌なことにも変わりない。それに絶対ボロが出る気がするし、何より直接会えば後に引けなくなる状態まで引っ張り込まれそうな気がする。 最近やっと自分が少々押しに弱いことを自覚しつつある烈としては、そんなすごい思考回路を持ったブレットの姉に会うというのはかなりの不安材料だった。 「そのことなら大丈夫だ。日本人にとって恋人を家族に紹介することは、大変に!大きな意味を持つようだから、レツもそう簡単に貴方に会うことを了承しないだろう、 と姉を説得したところ」 どんだけ奥ゆかしい日本人だ。というか年齢を考えろ。 「オレ達が仲良くデートする姿を遠目にでも確認できたら大人しく帰るということで妥協してくれた」 焦っていた割には随分根回しのいいブレットに烈は未だに思うところがないでもなかったが、取り敢えずブレットの言葉に嘘がないことだけはよく理解できた。 「まぁ…破天荒な兄弟に振り回される気持ちはわからないでもないし、ね」 「それじゃあ!」 大きな溜息を落としながらも普段から良識のない弟に振り回されている烈は、それ以上に強烈な姉を持つブレットの不憫さを思い、ついに了承の言葉を発した。 「言っとくけど、今回は特例だから」 「Tanks!レツ!」 すんなりOKがもらえるとは思っていなかっただけに、ブレットは感動のあまりレツと熱い抱擁を交わそうとした、が再び叩かれた。 「ストップ。行くのはまぁ仕方ないとして、ただどうも君のそういうとこは信用に欠けるんだよね」 「そういうとこ?」 「衝動的に過度なスキンシップを図ろうとするところ」 「しかし今のはやましい気持ちではなく、純粋に喜びからの感動の表現だぞ?」 「その辺はアメリカ人と日本人では感覚が違うんだって。君はよくても僕がよくないことって意外と多いんだよ」 「確かに端で見ていても、ブレットは烈に対してのみスキンシップが過剰なきらいがありますよね」 今回はデートなのだから多少は仕方ないかもしれないが、人目もあるとなればやっぱり余計に気恥ずかしい。 平凡な(あくまで烈はそう思っている)日常生活を送る身としては、弟以外の男に抱きつかれるというのは許容しがたいものがある。 というか正直に言うと、これが可愛い女の子なら嬉し恥ずかしなのだが、下心有りの男ではキモイとしか言いようがなかった。 さすがにそれは口には出さなかったが。 「だったらエーリッヒに見張ってもらうというのはどうだ?」 「は?」 烈当人がいいのならば、ということでこれまで他人事として成り行きを眺めていたエーリッヒだったが、突然ブレットから名指しで指名され驚きに目を瞬かせた。 「レツはオレがレツの言うところのおかしな真似をしないか心配なんだろう?だがオレには生憎どこまでが許容範囲内なのかさっぱり検討がつかない。 ならば傍目から見て自然に許される範囲を第三者のエーリッヒに判断してもらえば、少なくてもレツとしては安心なんじゃないのか?」 まぁ仮にもデートである以上、一緒に行動というわけにはいかないから、ある程度距離をおいて見張るという形になるわけだが。後ついでに姉の動向も監察してもらえると助かる。と続けるブレットの言葉など二人には既にどうでもよかった。 妙だ。 烈とエーリッヒは反射的にそう思った。いくら苦しい状況に立たされているとは言え、これも日頃から奴が狙っている二人っきりのチャンスには変わりないのである。 この男がそれを自らふいにするとはとてもではないが、考えられない。何かある、と二人は勘ぐらずにはいられなかった。 「……まあそれはエーリッヒ君が目を光らせてくれてると思えば気は楽になるけど」 とは言え、烈からすればやはり本当の二人っきりと天秤にかければ、断然お目付け役としてエーリッヒが見守っていてくれる方がありがたいことには変わりはない。 何かあってもエーリッヒがいれば大丈夫だ、というくらいには彼への信頼は深かった。 「……私も別に構いませんが」 エーリッヒにしてもやはり心配は心配であったので、当人達の了承許可付きで同行できるのならばそれはそれでいいか、と思われた。 ブレットが何を企んでいたとしても所詮は詰めの甘いヘタレ男の考えることであるから、何かあってもその場その場臨機応変で何とでもなるだろう、と計算してのことでもある。 結局のところ烈もエーリッヒも基本、この浮かれアメリカンが何を考えていようが知ったこっちゃあないのである。 「よし、じゃあ頼むぞ、エーリッヒ!」 「わかりました。それではレツ、当日ゴー・セイバをお借りしてもよろしいですか?」 え?何か突然話がすごく飛んだ気がするんだけど。 さも当然のように烈に許可を求めるエーリッヒに、今の話のどこに豪の名前が出る余地があったのか烈とブレットにはよくわからなかったが、取り敢えず話の流れから考えられる最大限のアドバイスを送った。 「まさか連れて行く気なの?やめた方がいいよ」 「確かにお前一人では大変かもしれない。が、ゴー・セイバは連れて行っても邪魔になるだけだと思うが」 「それこそまさかですよ。何故そんな複雑な現場にゴー・セイバを連れて行かなければならないんです?」 どうやらそれは二人の杞憂だったようで、エーリッヒにはそんな無謀な試みなど頭の片隅にも存在しなかったようだった。 ならば何故豪が必要なのか、やっぱり二人はわからなかったが、ブレッドは今回豪の行く末には興味がなかったし、烈は烈で豪の一人や二人むしろ一日くらいなら引き取って欲しいくらいだったのであまり深く考えずにGOサインを出した。 「まあ日暮れまでに返してくれるなら構わないけど」 とは言え両親が心配するといけないので一日とは言わず一応時間制限を設けておく。 「それはよかった。しかし、言われてみれば一人で見張ってフォローを入れるというのは少々骨がおれますね」 どうしましょうかねぇ。 言葉とは裏腹に全く悩んでなさそうな口調で考え込むエーリッヒに、人選をミスしたかもしれんとブレットはだんだん不安を感じ始めていた。 そして烈もまたただのデートが当初より大事になりそうな雰囲気に別の意味で不安を募らせていた。 しばし三人の間に落ちる沈黙。 「やっぱりやめようかな……」 ポツリと零れ出た烈の本音は静まり返った廊下に思いの他大きく響き渡った。 「レツーっ、それだけは勘弁してくれ!」 即刻不安の陰など吹き飛ばしてブレットはほぼ悲鳴に近い声で嘆願した。 烈も本音がチラと頭を過ぎっただけで、一度約束をした以上本気でそれを破るつもりなどなかった。 しかし必死に拝むブレットに訂正するタイミングが掴めい。 困った。 「ふふふ、いいざまだな」 そしてそこに加わる新たな声。 「何、誰だ?!」 「お情けでデートしてもらおうなどと、随分堕ちたものだな、ブレッド!」 「シュミット!」 曲がり角にもたれかかり、颯爽と姿を現したのは積年のライバル。ややこしいときにややこしい奴が来やがった!とブレットは思いっきり舌打ちする。 「チッ、どこから嗅ぎつけて来やがった?!」 「ふっ、嗅ぎ付けるも何も、お前の『デートしてくれ』などと懇願する情けない声が自然と俺の耳に飛び込んできただけのこと」 「格好つけていないではっきりただの通りすがりだって言えばいいじゃないですか」 どうせ自分達の前を横切ろうとしたところでちょうどブレットがやって来て、突然妙な話をし出したため、道を通るに通れず何度も自然に通過するタイミングを計る内に結局全てを立ち聞きする羽目になっただけなのだろう。 「もう少しボリュームを押さえてくれないかな」 そんなのは別に大声で言うほどのことではないし、あまり騒ぎを大きくして欲しくないのに一々大声を出さないで欲しい。 エーリッヒと烈の真実と正論を突いたツッコミに、さしものシュミットも怯みをみせる。 その一瞬の隙をつき、ブレットが反撃を開始する。 「いや、そんなことはもうどうでもいい。帰れっ!これ以上話をややこしくするな!」 「お前の指図を受けるいわれはない!」 顔を合わせればいがみ合いになる二人だったが、一応トーンは先より押さえている辺り意外と律儀である。 「まあいいじゃないですか。協力者は多い方がいいですよ。それでは当日は私とシュミットで護衛にあたります。それなら安心でしょう?」 エーリッヒはちょうどいいと言わんばかりに即刻脳内の協力者名簿にシュミットの名を書き込んだ。 「ちょっと待て、エーリッヒ。こっちへ来い」 「何ですか?」 『俺はあいつの情けない面を間近で拝もうとして登場しただけだぞ。何故私がそんなことをしなければならないんだ?』 『今ここにいるからです』 『そんなものはリーダーに頼めば良いだろう。喜んでやってくれるぞ』 『馬鹿ですか、あんたは。リーダーになんて知られた段階で失敗です』 『ならアドルフとヘスラーに』 『そんなことしたら可哀相じゃないですか』 『俺はいいのか?』 『神経太いから大丈夫ですよ』 『しかしなぁ』 『シュミット、言いたいことは濁さないではっきり言ってください』 『うむ、はっきり言って男のデートをつけるなど嫌だ』 『わかりました。では今週末でお願いします』 『聞く意味あったのか?』 『だったら休日丸一日リーダーの相手をしてくれますか?』 『それは嫌だ』 『ではそういうことで』 『む、仕方あるまい。だがその場合リーダーの面倒は誰が見るんだ?あの二人で抑えきれるか?』 『だから適当にゴー・セイバを与えておくんですよ』 『なるほど』 「というわけで彼も協力してくれるそうです」 交渉を終えたエーリッヒは、まるで後ろ暗いことなど何もないかのような晴れやかな表情でレツへと報告を行った。 「ごめんね。シュミット君。折角の休日なのにくだらないことにつき合わせることになって」 まさかシュミットが子守り嫌さのために引き受けたなどとは思いもしない烈は、素直に彼に感謝を送った。 「まぁ乗りかかった船だしな…」 それに対し、豪を生贄にしてしまった後ろめたさもあるシュミットの歯切れは非常に悪かったが。 「お前に乗船許可を与えた覚えはない…!いや待てよ。そうか…お前も来るのか」 しかしここで黙ってないのがこのブレット。宿命のライバルに借りを作るなどとんでもない、と言わんばかりに牙を向こうとした。 が、何故か途中でその勢いは急速にしぼみ、突然頷き何かに納得したかのような素振りを見せると、続いて何やらブツブツ独り言を零し始めた。 よく考えたら…危ないところだった。…馬鹿か、オレは…いや、今気付いたこととを喜ぶべきなのか。 その表情はゴーグル越しでよく見えないが、おそらくその下では百面相していると思われるブレットに三人は気味悪げな視線を向ける。 「貴様何をゴチャゴチャ呟いている?文句があるなら聞こえるように言わんか」 「むしろ…おい、シュミット。ちょっとこっちへ来い」 一体何なんだ!と叫ぶシュミットを引き摺るようにしてブレットは先の曲がり角へと消えていった。 「エーリッヒ君、やっぱりブレットなんか変だよね」 「そうですね。まぁ元々変ですけどね」 あのブレットがシュミットと仲良く密談などきっと碌なことではない、と二人は更にブレットへの不信を募らせるのだった。 (間) 「待たせたな、二人とも」 しばらくして戻ってきた二人はどうやらお互い不満なく和解したようだった。 不審げに見つめてくる烈とエーリッヒにブレットは取り敢えず素早く話をまとめその場から逃げの一手へと走った。 「さて、それではそろそろ解散といくか。行き先については俺は遊園地にしようと思う。デートの定番と聞くし、多少何かあっても人ごみや音楽でごまかしが聞くだろう?じゃあ詳しい時間と場所はまた改めてということでもう問題はないな?」 「いや、ある」 人が折角丸く収めようとしているんだから空気を読め、このバカが! というブレットの心中など全く読む姿勢もないシュミットが待ったをかけた。 「何だ、くだらんことだったら後にしろ!」 「極めて重要な問題だ」 深刻な表情でエーリッヒに向き直るシュミットに周りも自然と静まり返る。 「見張りは俺とお前の二人でやるのか?」 「そうです」 「行くのは遊園地で間違い無いな」 「今そう行ったろうが」 「想像しろ」 「え?」 エーリッヒ君とシュミット君で遊園地? 三人は想像する。 親子、カップルの犇く楽しい遊園地。そこに君臨する銀髪・色黒の明らかに日本人離れした容姿のエーリッヒ(自分)と無駄に偉そうで優雅な貴族然としたシュミットの二人組。 「変だぞ」 というか浮く。一歩間違えれば道楽貴族の坊による土地買取の視察に見える。 ざ・遊園地の似合わない男ズ。 「「「確かに」」」 「だろう?」 シュミットの珍しく的を射た意見に三人は一斉に頷いた。 「では他にも誘いましょう。下手にこそこそするよりかえって集団で言った方が怪しくないかもしれません」 「誰を誘うんだ?」 「そうですね…アストロレンジャーズは姉君に面が割れてるでしょうし……」 ******** そしてあっという間に運命の日はやって来た。 「晴れて良かったね」 「本当に」 「おい」 いつもは額に巻いている緑のバンダナを今日は頭部全部を覆うように巻きつけたJが、隣に立つ帽子を目深に被ったエーリッヒににこやかに語りかけた。 「そうだな、絶好の出歯亀日和だ」 「何でワテまで……」 「おーい」 その後ろではシュミットが日差しがまぶしいと言わんばかりにサングラスを掛け直し、四角い縁眼鏡をかけた藤吉が扇子で口元を隠しながら渋面を作っている。 「今日二人が行くのは三国ファイブスターランドですからね。やはり大本は押さえておきませんと」 「人の話を聞けーっ!」 「なんですか。騒々しい」 無視するには大きすぎるその声に、エーリッヒは顔を顰めつつもついに下方に転がされた物体、簀巻き状態で捕獲されたエッジに目をやった。 「お前等がそうさせてんじゃないの!一段落前の台詞はどこに?!大体オレは一緒に行くなんて一言も言ってねーぞ!」 「何をいまさら。ブレットに聞いたら簡単にOKくれましたよ」 「リィィィダァァァァッッッ!」 さも当然のように言うエーリッヒにエッジは今度こそ魂の悲鳴を上げた。 「というかよく考えたら我々はブレットの姉君の顔を知りませんから」 「んなもんオレだって知らねーよ!」 「え、そうなの?エッジ君って意外と使えないんだ」 正論だが、勝手に浚ってきておいてその扱いはどうだろう。さらりとひどいJ。 「うむ、使えんな」 「お前にだけは言われたくねーよ、シュミット!」 偉そうに言うが、実際彼に何ができるのかいまいち不明なシュミット。 「ああ、早く家に帰りたいでゲス」 ほぼ無関係に近い藤吉は面白いもの見たさよりも、先行きへの不安が勝るのか大きな溜息を落とさずにはいられなかった。 同じ頃、はるか上空にて下界を見下ろす不穏な陰が蠢いていた。 「やっぱりね。おかしいと思ったよ」 長い髪をたなびかせヘリコプターの扉から身を乗り出して、双眼鏡を覗き見るのは本日寮に置いてけぼりにされたはずのミハエル。 その耳元からはいつものようにイヤホンの線がチラチラと見え隠れしている。ただし流れてきているのはお気に入りのメロディではなく、眼下に見えるチームメイト達の声。 「あれ、ミハエル?それにアドルフにヘスラー?なんでこんなとこにいんだ?ここオレんちじゃねえよな?」 開け放たれた扉から吹き込む風にようやく目を覚ました豪は、まず辺りを見回しここが見慣れた自分の部屋でないことを確認し、ひらすら?マークを飛ばした。 豪の記憶では確かに昨夜は自分のベッドで眠ったはずである。 よもや親愛なる兄に売り飛ばされ、寝ている間に寄宿舎のドイツの部屋やらヘリやらに運ばれているとは思いもよらない、というか普通はまずない。 「そんな細かいことはどうでもいいじゃない。それより下を覗いてみなよ」 あの遊園地の入り口前だよ、とミハエルは手の中の望遠鏡を豪に投げてよこす。 キャッチした豪は下?と首を傾げながら唯一ある扉へと近付いていく。まだ寝ぼけているのかボウッとした表情で言われた通り下を覗き見た。 「ゴー・セイバ。あまり不用意に近付くと危ないぞ」 「危ないって何が…………って高いっ?!」 ぎゃああああっ!そして下を見た瞬間、ようやく自分が空の上にいることを自覚し、遅ればせながら豪は大きな悲鳴を轟かせた。 しかし、慌てて身体を機体の奥まで引っ込めようとしたその一瞬、双眼鏡越しにチラリと捉えた見覚えのありすぎる紅い髪に豪は思わず恐怖を忘れ踏みとどまった。 「ってあれは、烈兄貴じゃねえか!それに隣にいるのは…ブレット?どういうことだよ、ミハエル!なんであの二人が一緒にいるんだよ!まさか…でででででデートとか言うやつじゃあ!」 「さぁ?でも烈君が一人で来たってことは一応了承済みなんじゃない?」 「冗っっ談じゃねえ!オレはぜぇぇぇったい認めねえっっ!!」 「じゃあどうする?」 「邪魔してやる!」 「OK!降りるよ。アドルフ、ヘスラー?」 「J、Ja!」 大きい図体をしながらもすみっこで縮こまる二人は強制執行されるリーダー命令に従い、パイロットに降下の指示を送るしかなかった。 「ふふっ、こんな面白いことに僕をおいていくなんて良い根性してるじゃない、二人とも?」 ミハエル様ご立腹。彼は負けることの次に仲間はずれにされるのが嫌いなのだ。 下界の二人と五人がそれぞれゲートを潜り、本日の舞台へと足を踏み入れていく。 遅れること数分、ヘリが地上へと着陸する。 「行くぜ、ミハエル!」 「うん、行こう!」 元気よく飛び出していく青と金の二つの弾丸を見てアドルフとヘスラーはただただ憎いほどに晴れ渡った空を仰いだ。 ああ…… 「「もう誰にも止められない」」 こうして波乱のデートはついに幕を開けたのである。 |
| to be continue… |
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前振りが長ーですよ。そして話に多少無理があるところはスルーして下さると嬉しいです。メインはこっからなので!そして文章苦手なので台詞重視でいきます。 この先ブレッド&烈グループ。ツヴァイ&J・藤吉+エッジグループ、ミハエル・豪&アド・ヘスの三パートに分かれて同時進行です。 果たしてこのメンバーで一日を無事乗り切ることができるのか?というか数多っ。とりあえず最初はグルグルミラーラビリンスです(センス皆無だ)。以降のアトラクションは募集です。 |