++入園〜いいからはよ行け〜++





「こちらエッジ、せっかくのナンパ日和を勝手に台無しにしてくれましたクソリーダーへ、聞こえましたら応答願います、どーぞ」
「こちらブレット。どうせ失敗するんだたまにはリーダーの幸せのために協力しろナンバー2へ、通信異常なし、感度良好」
「こちらエーリッヒ。レツ、気分はどうですか?どうぞ」
「隣にいるのがこれじゃなければ精神異常なし、気分良好です」

「oh、レツ!コレって物扱いなのか?いやだがレツに物扱いされるならそれはそれで本望だ!」
「帰る」
「冗談、冗談だからまだ始まってもないのに帰らないでくれ!」

「こちらJ。どうやら大丈夫みたいだね」
「こちらシュミット。うむ、アホなブレットの声がうるさく聞こえている。問題なしだ」
「こちら藤吉でゲス。なんでデートに無線機が必要なのか誰か説明して欲しいでゲス、どーぞ」
「向こうの声は盗聴器で拾えるにしても、離れているとこちらの指示が送れないためだと思いますよ。我々も姉君と彼らの両方をマークするわけですから常に固まっていられないかもしれませんし。 ところで二人ともいきなり周囲の注目を集めてますよ。騒いでないでいい加減早く入場してください、どうぞ」
「え?うわっ……りょ、了解。早く行くよ、バカブレット!」
「OK、OK」
「リーダー、にやけてないでバカは否定してくれよ」


 ブレットの持っていたチケットを毟り取り、周囲の好奇の視線を避けるようにしてレツが一人ずんずんとゲートへと進んでいく。
 一方、ブレットは反対に周囲の視線など一向に気にする様子もなくどうどうと余裕面でレツの後に続いていった。
 ゲート一つ潜るだけでこの騒ぎ。先が思いやられるぜ。
 エッジは溜息をつきながら無線機と耳元につけた盗聴傍受機の通信回線をオフにした。
「さて、我々も行きましょう」
「ああ」
「まずはブレットの姉君を探さないといけませんね」
「……ねえ、あそこの金髪の女の人、さっきから烈君とブレット君を見てるような気がしない?」
 Jが小さく指を指した方向を四人が一斉にチラリと様子を窺うと、そこには確かにスラリと背の高い外国人と思われる金髪女性が立っていた。
 サングラスを掛けているためその視線の先は正確には窺えないが、身体の向きから考えればブレットと烈の方を見ているように見えなくもない。
 そのとき烈とブレットが立ち止まった。どうやら入り口で配られたパンフレットを見ながらアトラクションを確認しているようだ。
 そして金髪の女性もまたそれに応じるよう一定の間隔を空けてピタリとその場に足を止めた。
「見ているな」
「見てるでゲス」
「口元や鼻筋にかすかにリーダーの面影がある。間違いない!」
 女性のこととなると俄然観察力が増すエッジが、例の女性の顔をじっと凝視すると念押しとばかりに力強く頷いた。
「では彼女をマークしながら、引き続き二人を見張ります。いいですね」
「「「ラジャー(でゲス)」」」
「ja」
 三人が綺麗にハモる中、はみでた返事をするものが一人。
「おいシュミットよー」
「嫌だ。アメリカ式だけは絶対できん!」
 今日は一応ブレッドのために集まったのだし今日だけとはいえ一応チームで行動するのだから、返事くらいアメリカ式でしてもいいんでないかい?
「そんなに無茶な注文か!?そんなに力一杯拒否るほどのことなのか!?」
 嫌々連れてこられたとは言えエッジとてリーダー達の幸せを祈っていないわけではない。
 日頃完璧な指揮系統で動くアストロレンジャーズの一員である彼はこういうちょっとしたズレが失敗に繋がるのではないかと少々心配になった。
「別に返事なんて何語でもいいでしょう」
「何を悩んでるんでゲス?」
「よくわからないけど早く行かないと早速見失っちゃうよ」
 が、他三人にはどうやらどうでもいいことだったらしい。
 エーリッヒは早くもパンフレットを広げ何やらブレッドに指示を送り始め、シュミットは遊園地が珍しいのか辺りを尊大に見回している。
 藤吉とJは、人の波に遮られ視界から外れ始めた女性の動向に目を向けることに忙しい。
 返事が揃わないことくらいシュミットの性質を知り尽くしているエーリッヒには想定の範囲内のことだったし、元々まとまりのないビクトリーズにはまずエッジの不安自体理解できなかったのである。
「オレがおかしいのか?」
 この場合常識人なのは彼だろうが、基本マイペースな人間達の中では損をするだけであった。



 そして場面は烈とブレットへと移る。人ごみの合間から微かに漏れ聞こえてくる一際軽い声に二人はパンフレットから顔を上げそちらに視線をやった。
「何を騒いでるんだ?あいつらは」
「というかエッジ君が一方的にシュミット君に食って掛かってるだけに見えるけど」
「全く。どこに行っても騒がしい奴だ」
 悲しいかな。エッジの熱意は当の本人達には全く伝わっていなかった。
「っと、エーリッヒか?」
 呆れ返るブレットの耳元で無線機がその存在を主張し始めた。
 ブレッド達の無線はエーリッヒ達が使う手の平サイズの超小型手持ちタイプではなく、傍受機は耳に直接、音声伝達マイクは胸元に付けるという分離型タイプ。
 もちろん姉君の監視対策である。そりゃあデート中に頻繁に何かをポケットから出し入れして話しかけていたら怪しすぎるだろう。
 (ちなみに無線機の知識は出鱈目ですので間違っても信用なさらないように)
 自分の名を呼ぶ人物の声にブレットは急ぎ意識を外から耳元へと集中する。
『はい。今あなたの姉君の存在が確認できました。エッジは間違いないと言ってるんですが、そちらから確認できませんか?』
「どの辺りだ?」

「J、わかりますか?」
「うん」

『ブレット君。右斜め後ろにヒトデの銅像があるのは見える?』
「ヒトデ?ああ、あるな」
 もしその方向に姉がいたとしても目を合わせることのないよう、アトラクションを見るフリをして身体の向きをほんの少しだけずらし、ほぼ目線だけでそちらを確認する。
 そこには何やら愛嬌ある顔をしたヒトデ型の像が確かにどでんと鎮座していた。ただし。
「二人とも、あれは一応ここのイメージキャラクターの一つで水玉ホッシー君、つまりだから」
 普通に通じているJとブレットの会話にそんな場合ではないと思いつつも、思わず烈の訂正が入った。
『レツ・セイバ。一応って……』
「あ、ごめん……」
 実は烈も最初見たときヒトデ?と思った者の一人だった。だってここヒトデ島なのに。周りにいる魚着ぐるみは何なんのさ。そもそも水玉模様なんて紛らわしいんだよ。それが本音だったりする。
 ようやく立ち直り途中から会話を聞いていたエッジは何も知らない藤吉を不憫に思い密かに同情の目を向けた。
 しかし藤吉はエッジの視線の意味がわからず不思議そうに首を傾げている。
 基本皆がずっと烈とブレットの会話を聞いているというわけではない。そのとき藤吉が盗聴器の音声をオフにしていたことは彼自身にとって幸福なことだったのかもしれない。
『え?あれ星だったんだ…』
「そういえばここはスターランドだったな。まぁ言われてみれば星に見えないこともない、か?」
『星でもヒトデでもいいですから早く確認してください』
 暢気に水玉ホッシー君談義を繰り広げる四人にエーリッヒが冷静に突っ込みをいれた。
「悪い……しかし、どこだ?ちょっと見当たらないようだが」
「僕もそれらしい人は確認できないけど」
『うーん、もしかしたら今の彼女の立ち位置だと二人からは見えないかもしれない。星の裏側にもたれるようにしてるから』
「そうか、仕方がない。取り敢えず後回しだ。あんまりしつこくして序盤から不信に思われたら本末転倒だからな」
『そうですね。まだ確認のチャンスはいくらでもあるでしょうし。ところで段取りは大丈夫ですか?』
「ああ、入り口から番号順にアトラクションを回っていけばいいんだろう?それよりそっちこそ随分賑やかだったようだが大丈夫なのか?」
『気にしないで下さい。第一のアトラクションはグ、グルグル?ミラーラビリンス…?ということになりますか、随分変わったネーミングセンスですね…』
 シュミット同様あまり遊園地に縁のないエーリッヒはそれが普通であるのかどうか判断はつかなかったが、あまり口には出したくない感じだ。
「三国ファイブスターランドの企画には藤吉君も協力したそうだから…」
 烈の言葉は控えめだったが要約すると……やっぱりそういうことである。ビクトリーズ内では誰もが藤吉のセンスについて口を紡んでいる。
 そのとき藤吉が盗聴器の音声をオフにしていたことは(以下割愛)。
『とりあえず、予定通りお願いします』
 センス云々は個人の嗜好の問題。これだけの人が納得して入っているなら自分ごときが口を出すことではない、とエーリッヒは気にしないことにした。


 エーリッヒからの通信が途切れる。向こうが回線を切ったのだろう。しかし烈とブレットは回線を切らない。
 基本こちらの回線は繋ぎっぱなしなのである。連絡事項があるときこちらが回線を切っていては指示が届かないからである。
 反対にこちらから連絡をつけたいときはどうすればいいかというと、烈とブレットの会話は全て向こうに傍受されているため普通に呼びかけるだけでいい。
 便利と言えば便利だが、自然なデートとしてはあまりにも間違ったスタンスであった。
「なんか僕らより向こうの方が危ない気がする」
 通信が切れた直後、烈がポツリと呟いた。
 WGPは記念すべき第一回大会が日本で行われているということでTVでも日々そこそこに大きく報道されている。
 つまりこの遊園地内には、ビクトリーズはもちろん外国人の有力な選手達である彼らの顔を知る者もいるかもしれないということである。
 なので各変装とまではいかないが、それもどきのようなことはしている。
 烈は緑の帽子を黒い帽子に変えているし、ブレットは普通にゴーグルを外すだけで充分だ。エーリッヒは特徴的な銀髪を赤い帽子で隠し、シュミットはサングラスを掛けている。エッジは髪を下ろしているし、Jはバンダナの巻き方を変えたし、藤吉も眼鏡を着用し扇子も不自然でないよう三国ファイブスターランド限定販売の品に変えている。
 しかし烈とブレッドは百歩譲って日本にやって来た異国の友人と仲良く遊園地に遊びにやって来たように見えても、それが向こうにも適用できるかと言うとやはり無理があった。
 客観的に遠目から見て初めて気付く。統一性が、ない。
 雰囲気を和らげるために集団にしたはずなのに、何故かより胡散臭い雰囲気を醸し出しているような気がする。というかはっきり言って彼らはどういう集団だ?
 どう贔屓目に見ても烈には答えられる自信はなかった。
「向こうが注意を引き付けてくれるならそれはそれでいいんじゃないか?」
 そんなネガティブに向けてダッシュする烈とは対照的にブレットはポジティブ思考だった。
「そうだね……もうそう考えることにするよ」
 烈もどの道目立たないなんてありえないだろうと思っていたので、この際それに乗っかることにした。
 それが単にやけくそから来たものだとしても、ある意味彼らはこれでバランスがとれているのかもしれない。
「で、まずはグルグルミラーラビリンスへ行くわけだが、これはどういうアトラクションなんだ?烈は来たことがあるんだろう?」
 オペレーションルームで検索をかけ、なるべく近場で人の多い流行っている場所を探したところ一軒の遊園地の『三国』の言葉に引っかかりを感じもしかしてと思い、烈に相談した。
 想像したとおりそこはTRFビクトリーズの一員であるトウキチ・ミクニの縁者が経営する三国コンツェルン傘下の遊園地で、ここなら烈も当然知っているだろうし、ある程度騒ぎが起こっても大丈夫な気がしたというのがそこを選んだ理由だ。
 ブレットの三国家の印象はパフォーマンスと称して結構世間的に引くようなことを平気でする一族、というものだった。あながち外れてもいない。
「前に藤吉君がフリーパスのチケットをくれて家族みんなで来たんだけど」
「どうだった?」
「わからない」
「これは行かなかったのか?」
「というかほとんど行けてないから」
「? レツ、こんなことを言うのは失礼かもしれないが、何をしに行ったんだ?」
「もちろん遊びにだよ。けど豪が……」
「ゴー・セイバ?彼がどうかしたのか?」
 むしろ彼の印象から考えれば積極的に全てのアトラクションに挑戦していきそうな気がするんだが、とブレットは烈に尋ねかけたのだが。
「甘いよ。豪を連れてくと『遊園地はスピードだぜ!ぶっ飛びだぜ!かっ飛びだぜ!』とか言って絶叫系ばっかり引っ張りまわされてそれ以外乗れないんだよ」
 烈は、遠い遠い目をしていた。
「だ、だが、ゴー・セイバは集中力が持続しないだろう?飽きれば、別のアトラクションにも行くんじゃないのか」
 なんだか遠くへ旅立ってしまった烈を呼び戻そうとブレットは豪のフォロー、のようなものをした。
「あの豪だよ?絶叫系に飽きる頃には僕も家族も気力が残ってないよ」
 まだ昔は河に落ちれば風邪を引くくらいの可愛げはあったが、今は海に落ちてもノーダメージの頑丈さだ(アストロドーム戦)。
 何より、マグナムのマックススピードにインラインローラーなしでついていけるような(アストロ以下略)奴の体力について行けるわけがない。
「…………」
 キッパリと言い切った烈にブレットはぐうの音も出なかった。
「豪と一緒だと結局なんでもあいつの独壇場になっちゃうんだもんなぁ」
 それは日頃頻繁にもらされる無茶な弟に対するいつもの愚痴のようにも思えたが、それはブレットに言い表せない違和感を感じさせた。
 烈は、こんなに暗い目をしていただろうか?
 ブレットには、烈の目の奥が微かだけれど黒い光を帯びているように見えた。
「烈……?」
「何?」
 しかし不安げなブレットの声に振り返った烈は、いつも通りで。
「気のせい、か」
 このとき迂闊にもブレットは烈の静かなSOSを見逃してしまった。以降彼は長い間このできごとを思い出すことなく、記憶の中に埋もれさせることとなる。
「だから何だって?」
 ブレットの呟きもまたレツの耳には届かなかったようだった。
「うん?気にするな。大したことじゃないから。それより今日の主役はレツ、お前なわけだし、芝居云々はあんまり意識せずに楽しんでくれよ。順番は決まってるがその分レツの好きなものも回れるだろうしな」
 良い奴、なんだよなあ。
 烈にとって自分を尊重してもらえることは素直に嬉しかった。
「そうだね」
 烈は少しだけ笑みを零した。
 これなら今日一日くらいうまくやっていけるかも。
「じゃあ行くか、レツ」
 あくまで友人としてだが。
 さりげなく腰に手をやりエスコートしようとするブレッドの手を周りから見えないようさりげなく抓り下ろさせながら、レツも第一の関門に足を向けた。



「って言うかさぁ、早く行ってくんない?」
「兄貴達いつまで入り口付近でごちゃごちゃしてんだよ?」
 でないと邪魔もできない(ねぇ)んですけど(だけど)。
 やる気を出しすぎ、手薬煉ひきすぎ、待ち構え過ぎたミハエル様と豪がイラッとしていることを彼らはまだ知らない。




to be continue…

行けてねえっっ!肝心のアトラクションに!閑話休題みたいになってますが、一応必要事項の説明みたいな感じです。ちなみに水玉ホッシー君はオリジナルキャラです。 しかも何気に今後書きたい話の伏線が入っていたり、してるから進まないのですね。次こそラビリンス!

*えーと、まずいことが判明致しました。私、チイコカップの舞台が三国ファイブスターランドであったことを忘れておりました。つまり、この話の時点ではドイツ一軍が到着しているので、ブレットは既にランドの存在を知っており、Jも普通に二回目行っちゃってたわけです。ブレットの発言やこの先のJに関する話に矛盾が出てきました…ので、普通なら内容を改訂しなければならないのですが、Jの話はストーリー上改稿が難しかったので、敢えてこのまま通すことにいたします。申し訳ございませんが、チイコカップの舞台は、別の場所だったというパラレル設定でお願いいたします。加えて、今更で本当にすいませんm(_ _)m(2008.1.31 追記)




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