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思えば、長かったよなぁ… 日が傾き始め、真っ赤に染まったGPドーム。 その無人の観客席で、エッジは一人、何をするでもなくぼーっと夕日を見つめながら突っ立っていた。 第二回WGPかぁ。 第一回大会が開催されたときはよもやここまでミニ四駆との付き合いが続くことになるとは思っていなかった。 しかし元々カリキュラムの都合から考えれば限界ギリギリのスケジュール。 年齢的にも、次回第三回への参加は絶対に有り得ない。 正真正銘、これが最後の大会になる…んだよなぁ。 ってオレ何今更そんなこと再確認してんだろ? まさか感慨に耽っているというのだろうか。自分らしくもない。 っつーか、感慨に耽ってる場合でもねえし。 |
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そう、エッジは今非常に悩んでいた。 題目は、自分の不調について。 最近、腹の中がムズムズする。 症状は決勝進出がほぼ決まった辺りから表れ始め、それからは徐々に頻度の増す訳のわからない不快感を持て余す日々。 はっきりした理由がわからないから、余計苛々した。 走りにもそれが表れているのか、既にブレットから何度か注意を受けているほどだ。 自分だけの問題なら、悩むのも自由だが、周りに影響が出るようならもう放置はしておけない。 どうせなら有終の美で終わりたいっつーのに、何で本当にこんなに不調になっちまったんだか。 早急に解決しなければと思うのだが、何故こんなに苛々するのかその理由がわからないのだ。 エッジは元々熱しやすい人間だったが、それ故に冷めやすい性質でもあった。 そんな特性の為か、これほど長い間、重い気分を引き摺ったことは、彼の密度の濃い人生においても早々は存在しなかった。 原因さえわかれば、すぐにでも解決できるだろうになぁ。 ってことはやっぱまず原因を考えないと……って、それじゃぁ堂々巡りだろうが。 「だあああああっっ!!」 あー、イライラするっっ!! ストレスが募りに募ったエッジは、ついに大噴火し、雄たけびと共にガシガシッと頭を掻き毟った。 カツン 「誰だ?!」 こんな半端な時間に、こんな場所に来る物好きがオレの他にもいるのか。 突如背後から響いた自分以外の足音にエッジは驚き振り返る。 少し離れた踊り場への階段から姿を現したのは。 「レツ・セイバ……?」 顔は逆光になっていてよく見えなかったが、その自らと同じ真っ赤な髪は夕日の中にあっても見間違えることはない。 「エッジ君?」 一年前より少しアルトの響きを含んだ声。 こちらに近づくにつれ顕になるその姿に、言わずと知れたTRFビクトリーズのリーダーであることを確信する。 「誰かと思った。どしたの、こんなとこに一人で」 「それはこっちの台詞だよ。ブレットは今日ミーティングで忙しいって言ってたけど?」 少し眇められたその目線は暗に「サボり?」と問いかけていた。 待て待て待て待て。 確かに多少自分は性格が軽く見えて、不真面目に見えるかもしれないが、ミッションに関してはいつも、いや確かにレベル低いやつとかはちょっと適度に手を抜いてるとこもあるかもしんないけど……うん。基本真面目にやっている。 「それはリーダー一人でいいやつなの!だからオレはちゃんとフリー!」 「ナンパは?」 ………………………どうやらレツ・セイバの中ではオレに対して少しばかり誤解が見られるようだ。 「あのなレツ・セイバ。オレだっていっつも女の子のことしか考えてないわけじゃないのよ、これでも」 「あはは、わかってるよ。ここに一人で佇んでるってことは何か一人で考えたいことがあるからだよね」 どうやらからかっただけらしい。レツ・セイバも人が悪い。 しかし、それがわかるということは。 「そういうレツ・セイバもまた悩み事か?」 「悩みの種は尽きないものなんだよ。取っても取ってもなくならない。西瓜の種みたいにね」 「西瓜ねー」 エッジは日本で初めて食べた夏の風物詩なるものを思い出した。 確かにあの種の多さには辟易とさせられたものだ。 「内容はまたゴー・セイバのレースでの暴走か?」 「それもあるけど、それだけじゃないよ。次のレースの対策とか、僕の引退後のリーダーのこととか、僕自身の今後、とか色々ね」 そのことを考えているのだろう。それきり烈は口を閉ざし、ただじっとレース会場を見下ろしていた。 静かだな。 だが烈は本来騒がしい人間ではないので、これが正常と言えばそうなのかもしれない。 それでもエッジは違和感を感じた。 何故ならエッジの中のレツ・セイバはブレットかゴー・セイバとセットになっていて、そのときの彼は静か、とは少し懸け離れた位置にあるので。 落ち着かねえ。 次第に居心地の悪さを感じ始めたエッジは、何か話題はないだろうかと頭を巡らせた。 と言っても二人の共通の話題で真っ先に思い浮かぶものと言えば、やはりブレットしかなかった。 そういや、レツ・セイバってリーダーと付き合ってんだよな。 そういやも何も二人がまだ恋人になる以前から否応なしに見守らせられたエッジは今でも頻繁に二人の騒動に巻き込まれている。 しかしあれだけ冷たくしてる割には意外と続いている。 レツ・セイバはこう見えてかなり漢らしい。 顔はこの通りだし、フェミニストだし、望めば可愛い彼女もできるだろう。 なのに何だかんだ言いながらも彼はブレットを選び、お付き合いも続けている。 その理由をエッジはふと疑問に思った。 「レツ・セイバって何でリーダーと付き合ってんの?」 「は?」 気付けばその疑問は口をついて出ており、目の前には突然過ぎる質問に目を点にする烈の顔があった。 「あー、いや、ただの好奇心っつーか、そのプライバシーに突っ込む気は無い…」 本当の、本当に何故今それが気になったのかはわからないのだ。 「なんでまた」とか言われたら答えられない。 あー、とか、うー、とか変な唸り声を上げる間に、烈は平常心を取り戻したらしい。 からかわれてるのか、深い意味があるのか判断しかねた為か、憮然とした顔をしながらも答えを考える仕草を見せた。 そしてエッジは下手な誤魔化しを考えるのは止めた。 まぁ気になるのは本当だし。 結論付けると烈が答えを出すのをじっと待った。 しかしその答えは。 「あんまり言いたくない」 「何でよ?」 「あいつが調子に乗ったら嫌だから」 ……ええと、今のはさりげなく惚気られたんでしょーか? 「何、その沈黙」 「いや一応レツ・セイバもリーダーのことちゃんと好きだったんだなーと」 改めて驚いていた。 そんな失礼極まりないエッジの発言に烈も呆れの表情を隠しはしなかった。 「あのねぇ、本当に好きじゃなかったら付き合ったりしないよ」 よかったな、リーダー。 溜息とともに吐き出された珍しい烈の本音にエッジは思わず心の中でリーダーへ歓声を送った。 しかしそれと同時にひどく馬鹿らしい気持ちになった。 結局のところ、彼らは喧嘩するほど仲が良いを地で行くバカップルなわけだ。 エッジは烈がブレットとのことをからかわれるのを事の外嫌がっていることを知ってはいたが、現在精神的にささくれ立っていた彼は少しくらい憂さ晴らしに付き合ってもらってもいいだろう、と思った。 日頃迷惑をかけられている仕返しに、冷やかしてやろうと。 「ラブラブでよろしいことで。愛は続くよどこまでもって?」 「そうかな?そうとは限らない気がする」 即座に返った現状否定とも取れる烈の返答にエッジは一瞬耳を疑った。 だがこの無音の空間で聞き間違いなどありそうにない。 「っておいおいおい。それはマジ話なわけ?」 「冗談言う気分じゃないよ。そっちも悩みの種の一つなんだから」 それは。 「別れ話と解釈してもいーんでしょーか」 「……うん」 烈に頷かれエッジはかなり困惑した。 ちょっとからかおうと思っただけなのに何だか話が妙な方向に傾いている気がする。 もしかしてオレ、地雷踏んだ? 焦ったエッジは先ほどはなんでリーダーなんかととか思っていたことをキレイになかったことにして、とにかくこのままではまずい、と傾きを正そうとリーダーのフォローを開始する。 「俺が言うのもなんだが、リーダーは良い奴だぜ。ちょっとおかしいとこもあるけど、いわゆる日本で言う3Kの高物件だぞ」 高学歴、高収入、高身長というアレだ。 「そうだね」 笑いに持っていって場を和まそうとしたエッジの言葉にも烈は反応を示さず、先と同じように相槌を打っただけだった。 ハァ エッジは一つ溜息をつくと、茶化して問題を有耶無耶にすることを諦めた。 「どういう理由か聞いてもいいか?」 人の恋路に首を突っ込む趣味はないが、事は自分の今後にも関わってくる重要な問題である。 ここで優秀なリーダーが振られてその後使いものにならなくなれば、順調な宇宙への夢が遠のきかねない。それは困る。 「だって先のことを考えたら絶対に上手くいかないと思わない?」 「あーまぁすごい遠距離だわな」 「今だってかなり忙しそうだし、僕が日本に帰れば今度こそ会うことどころか連絡もままならなくなるよね。これからずっと」 やばいよ。否定できねーよ。 烈の言葉は正しい。スケジュールはかなり押している。元々第一回だけの参加のはずだったWGPにもう一度出場を決めたことで本来消化されるはずだったスケジュールがかなり押していることは無視できない現実である。 これが終われば本格的にNASAでの研修に集中しなければならない。そうなれば自由な、それも日本へ行けるような纏まった休暇はかなり難しくなるだろう。 すまん、リーダー。 こればっかりはフォローできない、と心の中でブレットに謝罪したエッジはそこで自らの思考に引っかかりを感じた。 日本へ行く暇がない? 「待てよ。それってレツ・セイバは将来的にステイツに来る気はないってことか?」 ブレットが夢を諦めることは絶対にありえない。だが、だからと言ってそのために烈を手放すという選択をするとも思えなかった。 だからこれまでエッジはあまり深く考えることなく、今すぐは無理でもいずれは烈がアメリカに移住することになるのだろうと漠然と思っていた。 だが今の烈の『これからずっと』という言葉を深読みするなら、烈はブレットとの物理的距離が縮まる日は来ないと宣言していることになる。 「だって、家を出るなんて今まで考えたことも無かったのに」 そんなエッジの思考を裏打ちするように烈は言った。 「けどリーダーは絶対烈にこっちに来て欲しいって言うと思うぜ」 「そうかもしれないけど、僕、一応長男だし」 ? 烈の言っている言葉の意味がわからずエッジは首を傾げる。 それを見た烈は、彼が自分とは別の風習の元に育った異国の人間であることを思い出した。 「そっか。アメリカにはそういう風習はないのかな?日本では大抵の場合長男は家に残って、将来親を守っていくものなんだよ」 それは日本に古来からある考え方で、今となっては大分廃れつつある風習である。 「それって破れないルールなのか?」 「まさか」 もちろん烈だって風習に縛られて考え込むほど大人ではないし、頭が固いわけでもない。 そんなものはただの建前だ。 「本当は…自分が家を出るのが不安なだけ。父さんや母さんを残して行くのは心配だし」 烈が思うのはいつだって家族皆のことだった。 「特に豪がああだからさ。将来家を出る可能性が高そうだし、僕まで家を空けるわけにはいかないよ」 思ったら一直線。弾丸のように目標に向かって飛んでいく豪。 弟の豪が持つ自由奔放で何者にも縛られない性質は、家に留めておけはしないだろうという思いがあった。 ならば自分は家に残るだろう。 だが、アメリカへ行きたいという想いもないわけではない。 しかし、母さん達に寂しい想いをさせてまで、ブレットの元へ行くべきか否かというと。 「だから日本を離れる気はないって」 「そう」 「で、別れると?」 「だから考え中なんだってば」 家族を取るか、恋人を取るか。昔から言われる究極の選択というやつだ。 そこまで考えてのことならエッジがこれ以上介入していい問題ではない。 「レツ・セイバって意外と現実主義者だったんだな」 「みたいだね。ブレットと話しててもたまにそう自覚させられることがあるから」 「リーダーもリアリストだろ?」 「割とあいつの方がロマンチストだよ。たまに乙女か!とか思うこともあるし」 「リーダーが…怖っっ!」 そう言えば昔、遊園地事件のときも色々痛いことを言っていたような気がする。 そこから先はブレットの面白おかしい笑い話で盛り上がり、結局逸れた話に戻ることはないまま日は完全に沈んだ。 |
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エッジと烈。世間的には珍しい感じでしょうか。私的にエッジはブレットさんのフォロー役なので、結構烈とも交流があるということになってます。ある種、J君とはまた違った苦労人コンビのような… |