++カートでGO!〜だってミニ四駆少年だもの〜++





 こうしてなんだかんだありつつも、ブレットはなんとか捜し求めた色を発見することができた。
 即座に、となりの赤色を振りほどき、求めに求めた紅色へと両手を広げ、一直線に駆けて行く!
「レツー!!!」
 ガバァッ
「あ、いたの?」
 スカッ
 抱擁空振りー。
 フッ、わかってたぜ、レツ!
 しかしそれはブレットにとって予想の範囲内だ。今更ダメージにはならない。
 それもどうだ?
 だが。
「レツ!心細かったろう!」
「え、全然」
 エ?ソクヒテイデスカ
「J君がいてくれたから」
 ナンデスカソノナイイエガオ
 続く連続パンチ。

 あれ?自分、、、いらなくね?

 ブレット衝撃。
 現実を直視。
 更に追い討ちをかけるように。
「ええ?!僕なんて大したことできなかったよ!彦佐さんが貸してくれた機械とエーリッヒ君のナビのおかげだよ」
「それもあるけど、やっぱりJ君の存在は大きいよ!J君といるとすごく安心できるし!」
「僕の方こそ、逆に烈君に励まされたよ!」
「J君!」
「烈君!」
 彼らは再び二人の世界。





「おい」
 剣呑な声が盗聴器に向かって発せられた。
『……何ですか?ちゃんと合流できたでしょう』
「な・ん・で・ゴール地点で!なんだ」
 ブレット、ついに噴火。
 おかしい。明らかにおかしい!
 通信では迷路の中で合流してデートらしく二人でゴールする予定であったはずだ。
 なのにどうしてゴール地点で勝利?を喜び合う二人が自分とレツではなく、Jと烈にすり替わっているのだ。
 しかも自分の相手がエッジで、しかも喜べる気分じゃないのはどういうことだ!
『仕方がないじゃないですか、非常事態だったんですから』
「それは認めるが……」
『全てを思い通りにいかせるのは無理ですよ。全力は尽くしましたが』
「本当か?」
『……………………………ホントウデスヨ』
 嘘だ。
 こいつは嘘をついている。
 しかも隠す気が欠片もない。誠意ゼロだ。
『まぁ、気を取り直して次へ行きましょう。次に』
「強引に話を進めようとするな」
『と言うよりぶっちゃけ全力かどうかとかどうでもいいじゃないですか。終わったことはどうにもならないんですから』
 どうでもいい、言っちゃった。




 このままでは駄目だ。
 このままではエーリッヒの掌で延々と踊らされて、踊り狂って終わる。
 一日が、終わる。
 嫌だ、そんなのはイヤダ!
 オレとレツの、楽しいデートのはずが……
 気付けばブレットは自分の都合の良いように(仮)を抹消している。これはもはや脳内妄想に近い。
「あ、じゃぁ、僕らそろそろエーリッヒ君達のところに帰るねー」
「じゃあな、レツ・セイバ。頑張れよ」
「うん、ありがとねー」
 暢気にバイバイと二人を見送っている場合ではない。
 烈は一刻も早く逃げるべきかもしれない。


 その後「あ、縞々ホッシー君だ」と不安の種がなくなり、ちょっと楽しくなってきた烈が縞々ホッシー君と握手したりなんかしちゃってる後ろで、ブレットは一人考え続けていた。
 考えろ、考えるんだ…オレ。
 MIT主席卒業の、その優秀な頭脳をフル回転させて、考えに考えた。
 その原因を連れてきたのが、自分だと言うことも忘れて。
 そして出された結論は。



 今のところのエーリッヒは、一番後方で傍観しているだけだ。
 ぶっちゃけ、騒ぎに参加していない。
 どう転んでも被害を被る位置にいないから、好きなように振舞っているわけだ。
 ならばどうすればいいのか。
 簡単だ。
 奴も巻き込めば良い。



 ブレットの中でカシャカシャカシャ、チーン!と完璧なプランが導き出された。
「エーリッヒ」
『はい?』
「お前はどうも信用ならん。だから今度はお前自らが動け」
『お、いーこと言うねぇ。リーダー』
 先ほどひどい目に遭ったエッジはあまり二人に近づきたくなかったのだろう。
 即座に無線で話しに割り込んできた。
『私がですか?』
「目に見えないところで指示だけ出されていると不安でしょうがない」
 人ごみの中に入ってしまえば、基本常識人なエーリッヒだ。
 周囲に迷惑をかけるようなことはしないし、よっぽどのことがない限りはフォローの約束も破らないはずだ。
 自分に火の粉がかからないよう、要領よく振舞ってくれるだろう。
「…………まぁいいでしょう。次は私が付き添います。それでいいですね」
「ああ」
 かかった!
 ブレットは今度こそうまくいくはずだ、と勝利?を確信し、満面の笑みで烈を次のアトラクションへと誘った。



 溜息と一つと共に、ブレットとの回線を終える。
「エーリッヒ君。本当に行くの?」
 戻ってきたばかりのJは、なんとなく自分がブレットの為に動く気ゼロであることを感じ取っていたのだろう。
 信じがたいと言いたげな顔をしていた。
「仕方ありません。さっきはあなた方二人が行ったのですから順番でしょう」
 まぁ確かに面倒臭いとは思ってますけど。
 ブレットの説得に納得できるところもないではなかったので、一応動く気にはなったが。
 正直、一人で関わるのは嫌だった。
 巻き添えを探し、視線を彷徨わせる。
「ワテは元々後方支援担当でゲスから、行く気はないでゲスよ」
 トウキチ・ミクニは、既にいつの間にか安全圏の良いポジションを確保している。
 伊達にビクトリーズで、時々抜け目なく美味しいとこ取りしていない。
 一方、エッジはと言えば、ちゃっかりものな藤吉に「こいつあなどれねぇな」という目を向けつつも、権力あってのポジションなので自分にはゲットできない位置だと早々に諦めているのか、流れに身を任せる姿勢をとっている。が、かなり疲労しているので、後のことを考え、今回は温存させた方がいいだろう。
 Jは最初からやる気満々だが、ジュースなど注文し始めたところから見ると今回は静観するつもりらしい。
 となると残りは。
「さ、行きますよ。シュミット」
「は?」
 そしてこれまで完璧に蚊帳の外にいたシュミットにもついにお鉢が回ってくることになった。
「私も行くのか?」
「順番だと言ったでしょう」
 というかあんたは一体何をしに来たのか。
 一番謎なのは、エーリッヒより彼のほうかもしれない。
 「まぁついていってやってもいいが」などと言いつつ妙に嬉しそうにパンフレットを見つめる様子からは、ただ単に遊びに来たようにしか見えない。
 が、この話が出たときブレットと何やら密約を交わしていたようだし、裏では何かを企んでいるのかもしれない。
 エーリッヒはその真意を探るようにシュミットの顔色を窺うが。
「次は何のアトラクションだ?」
「ゴーカートです。車でコースを走るアトラクション」
「無免許運転だろう!犯罪を推奨しているとはなんと恐ろしい…はっ、もしや遊園地とは仮の姿で、実はスラムという名の無法地帯……」
「玩具の車に決まってるでしょうが」
 余計な心配だったか。
 エーリッヒはシュミットのズレ具合に呆れつつ、別の意味で頭を痛めることになるかもしれないと、再び溜息をもらした。



********



「すいまっせーん!オレにもコカ・コーラ一つねー!!」
 恐怖の魔王エーリッヒと、天然ボケ問題児シュミットが去り、これでのびのびと羽を伸ばせると思ったのか、エッジ、寛ぐ気が満々である。
 まぁ去り際のエーリッヒに「何かあったらフォローだけはお願いしますね」と頼まれたにも関わらず、既に「エーリッヒ君が行くなら自分達出番ないな」と盗聴傍受機を机に放置しているJも藤吉も、ある意味似たり寄ったりかもしれない。
 しばし三人で世間話などしつつ談笑する。
「そういえば僕一つ気になったんだけど…」
 やって来たオレンジジュースをズズズと啜りながら、Jがふと「そうだ。昨日カレーを食べました」とでも報告するかのように軽く言った。
「お姉さん、どうなったの?」
「「あ」」
 それを忘れてた。
 肝心なことを忘れちゃう辺り、この三人、どこか詰めが甘いようだ。
「おいおい、トウキチ・ミクニ。なんでお前も「あ」とか言っちゃってんの?」
 確かにそれはおかしい。彼女は野菜部隊たちが足止めしていたはずだ。
 当然藤吉にはその後の動向の報告が入っているはずである。
「そう言えばまだ報告が来ないでゲスな」
「それっておかしいよね。鉢合わせしなかったってことは足止めは成功したはずなのに……」
「連絡が無いってことは、その後何かあったんじゃねーの?」
 三人の間に落ちる沈黙。
「……………彦佐さんからも連絡ないの?」
「彦佐は、侵入者が逃亡の際に起こしたグルグルミラーラビリンスの電源落ちの復旧作業中でゲス……」
 つまり野菜部隊たちがどうなったか、管理室のモニタでも確認できない。
「どーする?」
「どう、と言われても困るでゲス」
「けどこんな報告、エーリッヒにはできない、っしょ?」
 エーリッヒは当然三人が、特に藤吉はそれを把握しているものと思っているだろう。
「えーと」
 Jの笑顔にも一筋の汗が伝う。
「とりあえず、フルーツパフェ三つ下さい」
「そりゃ現実逃避だろ」
 まぁ報告を待つぐらいしかできそうなこともない。
 すぐゴールから出てこなかったところを見ると、今は向こうも二人を見失っている可能性が高いし、どちらにしてもホシはブレットと烈を見張ることが目的なので、その内戻ってくるだろう。
 それに。
 言わなきゃばれない。多分。
 三人は盗聴傍受機をしっかり付け直し、無事姉が見つかることを祈りつつ、黙ってパフェをほうばった。



********



 その頃、何も知らないブレットと烈、そしてその後ろに続くエーリッヒとシュミットは正に次のアトラクション、『カートでGO!』のスタート地点に辿り着いていた。
 アトラクションは意外と本格的で、まるでミニ四駆世界グランプリのノーマルコースをそのまま巨大化したかのようだった。スタートラインには二台のカートが並べるようになっており、ペアでレースを楽しめる仕組みになっている。
 今、烈とブレットのペアがスタートラインについており、その次の次に、エーリッヒとシュミットの乗ったカートが待機している状態だった。
「シュミット、これ私達が乗る意味なくないですか」
 エーリッヒは普通に柵外から見張る気だったはずだ。
 しかし何故か乗る気満々のシュミットに引き連れられ、思わず(無理やり)乗車して(させられて)しまった。
「何を言う!柵外などからあの不道徳者をとめることができると思うのか、エーリッヒ」
「いや、車ごしに何もできませんよね?お互いに」
「いやいやいや。何事も心意気だ!」
「意味不明ですけど、単に乗りたいってことでいいですか」
 まぁ、何もしようがないなら観戦しようがレースをしようが大して変わらない気もする。
 というわけで、エーリッヒはシュミットを止めるのをやめて、純粋に走ることを楽しむことにした。
「そろそろ準備はいいかー!!」
 エーリッヒの決意と共に、ファイターもどきがチェッカーフラッグを構える。
「レツ、遊びとは言え、レースはレースだ。容赦はしないぞ」
「もちろん。そっちこそ負けても吠え面かかないでよ」
「言うな」
「言うよ」
 このときばかりは色恋沙汰も意味を成さず、単なる好敵手として、互いに不敵な笑みを交し合う。
「それじゃあ行っくぞー!!3・2・1・GO!」
 二台とも綺麗なスタートを切った。
 スタートラインまで一台分カートを進めるエーリッヒは、まだ気付いていなかった。
 己が思考に重大なミスを犯したことに。
 『車ごしに何もできませんよね』
 これは、レースだ。
 何かは、必ず起きる。




「やるな、レツ!」
「そっちこそ!」
 そしてそれはブレットと烈が互いにトップを競り合う形でコースを半周ほど終えた際に、始まった。
「ぬぅぅぅ」
「どうかしましたか、シュミット」
「エーリッヒ、これは由々しき事態だ」
「は?」
 また何をわけのわからないことを、と内心毒づきつつエーリッヒは嫌な予感がした。
「何故!ブレットの奴があんな前を走っているんだ!」
 予感に違わぬ、正論から左斜め195度くらい傾いた発言。
「向こうが先にスタート切ってるんですから当たり前でしょう。こういうアトラクションは大抵前の車に衝突しないようにできてるものですから、抜けないのが普通なんです」
「そういう問題ではない!同じコースを走りながら、我々ではなく、あやつが私より前を走っていることが問題なのだ!!」
「問題なのは貴方の頭です、シュミット」
 しかし一旦熱くなったシュミットは、簡単には収まらなかった。
「行くぞ、エーリッヒ」
「はい?」
「ツヴァイフリューゲルだ!」
「無理です」
「む、じゃあツヴァイラケーテだ!」
「それはネタバレです!……ってちょっと!何やってんですか!」
 しゃ、車体が擦れる!
 じわりじわりと迫ってくるシュミットのゴーカートにさすがのエーリッヒの額にも冷汗が浮かぶ。
「冗談じゃ、ない!吹っ飛ぶなら一人で勝手にしてくださいよ!」
 巻き込まれるのは御免だ!とばかりにエーリッヒは咄嗟にブレーキを踏み込んだ。
 急ブレーキに傾ぐ車体を華麗にスピンターンで安定させる。
 この時点で周りの観衆から『おおー』という感嘆の声が上がった。
 エーリッヒはそのままアクセルとブレーキを巧みに使い分けて減速しながらハンドルを切り、後ろからシュミットの車体に頭突きをくらわした。
 タイミングがよかったのか、シュミットのマシンはスムーズに加速する。
 再び歓声が上がる。
 たちまちスピードに乗ったシュミットのマシンは前方の普通に走っていた一般人のカートを抜き、更にその前方のブレットのマシンまでも抜き去った。
 シュミットの高笑いが響き渡る。
「ふはははは、見たか。ブレット!お前の古臭いマシンでは到底私のマシンには追いつけまい!」
 別にシュミットの力ではない。単にエーリッヒに吹っ飛ばされただけだ。
 しかし明らかにその光景を見ていたはずのブレットは悔しそうに言った。
「何!……サターンフォーメーションだと?!味な真似を…」
『ちょっ、何のネタばらし大会―――っっ?!』
 二人の戦いの火蓋は切られた。
 思わず入ったエッジの突っ込みも、もう届かない。
『っつーか、違うじゃん?!』
 そうだ。サターンフォーメーションは決して玉突き加速ではない。
「違う?ああ確かに。二台ではサターンフォーメーションは完成しないからな」
『そこじゃねえ!!』
 完全に自分の世界に入ったブレットは、烈が横をスィーと抜けていったことにも気付かない。
「だが本家としてオレは負けるわけにはいかん…こっちもパワーブースターオンだ!」
 こいつはアホだ。
 烈は、背後でありもしない機能を大声で叫んで決意表明をするブレットを、半眼で見た。
 既に周りの反応は、ちょっとしたパフォーマンスショウを見る目だ。
 あれ?
 しかしそこで烈は気付いた。
 何人かの観客と目が合う。
 周りの視線が、痛い。
 まさか。
 まさかまさかまさか!





 僕まで、同類に見られてるんじゃあ…………



 顔の熱が急激に上昇する。
「逃がしませんよ、レツ!!」
 奇しくもそこでエーリッヒが思いっきり烈に向かって、大声で呼びかけた。
 貴方だけ逃げようったってそうはいきませんよぉぉぉ、という、いつの間にか有り得ない速度でこちらも一般人のカートを抜いて来たエーリッヒの怨念が追いかけてくる。
 烈は最後のカープで鮮やかにパワードリフトを決め、誰よりも早く、さっさとゴールラインを超えた。
 耳を塞いで、乗り場を走りぬけ、近くの茂みに蹲る。
「死ぬほど恥ずかしいぃぃぃい……!」
 烈は今、ブレット達とここに来たことが最大の失敗であったことを、漸く自覚した。



********



 ちなみに姿の見えない豪達はどうしていたかと言うと。
「おい!何だよ、この悪趣味なマシンは!」
「ちょっと、この僕をこんな古臭いデザインのマシンに乗せようって言うの!」
「え、ええっ?!」
 思いっきり監視員に因縁をつけていた。
「もっとマグナムばりのかっこいいマシン作れよな!」
「君、さっさとベルクカイザー並のマシンを持ってきてくれない?」
 理不尽に絡む姿はもはや、小さなチンピラの粋である。
「ゴー・セイバ、ないものは無いんだって」
「ミハエル、無茶です」
 それを必死で止めるアドルフとヘスラーの説得は届くか否か。
「お前達」

「僕(おれ)の言うことが聞けないのか!!」

「お願いですから止めて(くれぇぇぇ)くださいぃぃぃ!!」
 結果的には、アドルフとヘスラーは後のことを思って半泣きになりつつも、遊園地の平和の為に二人を力ずくで引き摺っていった。
 そんな勇気ある二人がいたことを、耳を塞いで脇目も振らず駆け抜けた烈が気付くことは、一切なかった。




to be continue…

えーと、宅のシュミットとブレットが唯のバカになって御免なさい(汗。何故なのか、彼らは私の中でやっぱりギャグキャラなのでしょう。 エーリッヒは一見黒く見えてましたけど、今回常識は弁えていたり、シュミットに振り回されたりしている辺りを描いたことで、灰色くらいに中和できたかな、と思うので目標は達成できた感じです。烈は他人事には結構冷静な目でものを見ますが、自分が巻き込まれることには弱いもようです。弱点は誰にでもあるって話です(強引まとめ)。



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