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++グルグルラビリンス〜ただ今遭難中〜++
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「よりにもよってワテが来た日にこんなことになるなんて…あああー、パパに知れたら大変でゲスよ…」 一頻り混乱した藤吉はついに力尽き、絶望的な気持ちでガクリと膝をついた。 「藤吉坊ちゃま、新しい情報が入りましてございます。ヒラメより電信。黒尽くめの怪しい四人組を管制室入り口付近で見かけたそうです、はい」 色々引っかかる部分はあったが、取りあえず彦佐の報告の意味が示すものは。 「つまり、その怪しい何者かに管制室が乗っ取られた可能性が高いということですか?」 「そ、そういうことになりそうです、はい」 エーリッヒの確認と申し訳なさそうな彦佐の肯定によって明確なものとなった敵という存在。 背中を丸めて蹲っていた藤吉の背後に徐々に闘士が渦巻き始めた。 「一体何者の仕業…これは立派な三国財閥への挑戦でゲス」 ゆらりと藤吉が立ち上がる。 そのときエーリッヒの耳元に再び助けを求める声が響いた。 『エーリッヒ君、大変!ブレット君のお姉さんの位置が烈君に随分近いところまで来ちゃってる。このままじゃあコースの変更次第で鉢合わせしちゃうよ!』 「何ですって!」 慌ててモニタに目をやるとそこには徐々に烈の赤い点に接近する黄色い点が。 しまった、レツとブレットにばかり目を取られて見逃していたか。 『どうしよう、先にそっちを妨害するべきかな?』 「いえそっちはこちら側でなんとかしてみます。貴方は一刻も早くレツの元へ」 不安げなJの声にエーリッヒは自らの失態にギリリと歯噛みしつつも挽回のために即座に頭を働かす。 『わかった』 「おい、エーリッヒ。どうかしたのか」 「トウキチ・ミクニ、なんとかしてホシを足止めできませんか!」 耳元で騒ぐブレットの盗聴傍受機をうるさいと毟り取り、エーリッヒは隣の藤吉に協力を求める。 「ぬおおおっっ!わかったでゲス!もう全部任せるでゲス!お坊ちゃまにも五分の魂、誰だか知らんでゲスがこの三国藤吉に不可能はないということを思い知らせてやるでゲス!!」 ドッパーン ついに三国財閥跡継ぎとしての藤吉がその真価を発揮する! 「彦佐!今すぐ管制室へ行って何が起こったか様子を探り、この異常なコース変更を止めるんでゲス」 「了解いたしました、藤吉坊ちゃま。三国機動隊出動でございますです、はい!」 彦佐がアタッシュケースを抱えあげ、すばやく入り口の方へ駆けて行った。 「そして出でよ!藤吉スーパーシークレットサービススペシャル、野菜畑の野郎どもでゲスーっっ!」 携帯のコール番号をピポパパと目にも止まらぬ速さで叩く。 待つこと、十秒。彦佐と入れ替わりに入り口の門からドドドドドと砂埃を上げて橙・緑・紫の三つの鮮やかな塊が姿を現した。 三人の前でビシッとポーズを決める。名乗るのは時間の都合で省略だ。 「野菜畑」 「おお、まごうことなき野菜たちだ。しかしエーリッヒ、何故野菜なんだ?」 不可解そうな顔をするエーリッヒの隣でシュミットは興味津々なようだった。 「知りません。僕に聞かないで下さい。そこに当人がいるんですから直接聞いて下さい」 きっちり三文で返答拒否されたシュミットは藤吉の方に向き直ったが、生憎忙しくてそれどころではなさそうだったのでしばらく待つことにした。 「いいでゲスか、お前達!今すぐここの!」 藤吉は鯛の中からニュッともう一つ例のモニタを取り出すと、その画面を野菜三人組へバッと突きつけ、ビシッとその中の黄色い点を扇子で差した。 三人の視線がそこに集まる。この際ドイツチームの一人が後ろで鯛の着ぐるみを興味深そうにさわっているのは気になっても無視だ。 「位置にいる金髪の女性を、なんとしても!この赤い点から引き離すでゲス!これ以上一歩も近づけてはならんでゲス!」 「「「了解」」」 「今日はちゃんと一列で行くでゲスよ!」 綺麗に整列したレッドキャロット・ピーマングリーン・バイオレットナスはモニタを受け取り、決して隊列を乱すことなく素早い動きであっと言う間に見えなくなった。 それまで見ていた鯛を放り出し、シュミットは去っていく野菜たちを尊敬の眼差しで見つめていた。 「なんと素晴らしいライン取り。すごい野菜達だ」 いい年して着ぐるみ着てることは無視ですか。 「当たり前でゲス。そんじょそこらの野菜と一緒にしてほしくないでゲス」 その前に貴方は野菜と人間の境目をはっきりさせるべきだと思います。 「しかしトウキチ・ミクニ。何故野菜なんだ?」 この緊急時に気になるのはあくまで野菜だけなんですね、貴方は。 「よく聞いてくれたでゲス。さすがシュミット君は目の付け所が違うでゲスな〜。野菜は身体にいいでゲス!そして野菜畑の野郎どもは人の役に立つでゲス!どちらも人のためになる、繋がりでゲス!」 「おお!」 山田君、座布団全部持ってっちゃいなさい。 シュミットと藤吉の間で交わされるどーでもいい会話にエーリッヒはきちんと一つ一つ突っ込んだ。 惜しむらくは唯一つ。 それらが全て心の中で行われたということだ。 つまり結局は放置していると同じことなのだが、役目は果たしたと言わんばかりにエーリッヒの意識はモニタへと移っていた。 盗聴傍受機を付け直し、烈とブレッドに現在の状況を知らせ、今度は黄色い点も考慮に入れた上で出来得る限りの指示を飛ばす。 的確に優先事項を捉えた行動。 エーリッヒ。彼は非常に有能な人材であった。 そんな感じにシュミットと藤吉が親交を深めエーリッヒが淡々と指示を続ける中、途方に暮れる烈の元にJが颯爽と到着していた。 「烈君助けに来たよ!」 「J君!」 「大丈夫だった?」 「微妙かも。鏡が反射してどこが道かすぐわからないんだ。さっきから行っては戻り戻り戻りしてる感じ。エーリッヒ君は異常事態だって言うし。 もしかして僕達ここで野垂れ死に?嫌な死に方だなぁ。でもここで死んだら三国家の責任問題で星場家には膨大な慰謝料が届けられるかもしれない。あ、でも人間三日くらい食べなくてもなんとかなるから大丈夫か」 「一見プラス思考に聞こえるけど実は限りなくマイナスだよ、烈君!取り敢えず戻ってきて、二人で協力すればきっとなんとかなるから」 「でもブレットとは即効逸れたし。もしまたはぐれたら今度こそ収集つかなくなっちゃうよ?」 「だったら手を繋いでいこう。ちょっと恥ずかしいかもしれないけど誰も見てないし何より世間体とか気にしてる場合じゃない。僕ちゃんとゴールできるようにしっかりナビするから、烈君も諦めちゃ駄目だ」 「J君」 「頑張ろう!」 「わかった、僕も戦うよ!」 何と戦うのか。 そういう話ではない。やはり烈は未だ少し混乱していた。 『レツ、またコースが更新されそうです』 「くらえ!ドライバー(+)!」 「同じく(−)!!」 ガッ、ガキーン。 二人の懐より放たれたドライバー(+)(−)はミラーブロックの境目を見事カチ割った。 ミラーブロック活動停止。 これもいつでもどこでもメンテナンス・セッティングを怠らない二人の努力の賜物だ。 彼らは常にベストの内にドライバーセット(予備含む)をズラリと潜ませていた。 「やったよ、J君」 「烈君!」 強敵(動く壁)を倒した恐ろしい子供たちはお互いの功績を称え合い、ガシッと固い握手を交わした。 そのまま手を繋ぎ、次の標的へと立ち向かっていく。 オーエス、オーエス。 二人の心は一つだ。 それと同じ頃、ようやくエッジもブレットの元へと辿り着いた。 「リーダー、大丈夫か!」 「遅い」 「必死にここまで走ってきた心優しきチームメイトになんつーこと言うのよ、リーダー」 間髪入れず「遅い」って、もうちょっとさー、あったかく迎えてくれたって… 烈とJの邂逅の様子を前もって聞いていただけにエッジはこの対応の差に理不尽を感じガックリと肩を落とした。 「いや、もちろん感謝はしている」 付け足されたような言葉だったが、エッジも別に本気で落ち込んでいたわけではないので結構簡単に立ち直った。 それにもしリーダーが本当にそんな可愛げのある反応したら間違いなくオレひいちゃうだろうしね。 「ま、いーや。とにかく早いとこレツ・セイバんとこへ行こーぜ」 「そうだな。モニタを貸してくれ」 当然の如く先頭に立とうとするブレットに咄嗟にエッジは待ったをかけた。 「えー、リーダーが先頭行くのかよ」 「何か不満か?」 ミッション・レース等いつもの方針から考えればそれが自然だと思ったブレットは何故止められるのか分からないようで、怪訝そうに眉を寄せた。 そんなブレットの様子にエッジははっきり自分の不安をぶちまけた。 「リーダーが先頭って何か不吉じゃん。縁起悪ぃ」 ビクトリーズ戦において、ブレットが序盤快調に走ると必ず最後には誰かに抜かれるじゃんの法則。 それはブレットの非常に痛いところをスパンと貫いた。 「え、ええええ縁起悪いとは何だ!」 「めちゃめちゃ動揺してるじゃねーか!」 「うるさい!とにかくナビはオレがやる!」 素早くナビを奪い取り走り出すブレット。 元々任されたナビ役を取り戻そうと後を追うエッジ。 「一位はオレのものだっっ!」 「いやオレだっっ!」 何で勝負に? むきになってスピードアップを図るナンバー1。 負けじとそれに食らいつくナンバー2。 「「ぬおおおおおおっっ」」 ヒートアップする二人の戦い。 そしてそこに打たれる突然の終止符。 ウィ―――――ン 「「おおっっ!?」」 キキ―――――ッッ 動く壁、迫る壁。 このまま走ればブレットとエッジの間にミラーブロックがピタリとはまる。 ブレットとエッジは摩擦で鏡の床をこそげ落とすつもりか、というくらいの嫌な音を立てなんとか急ブレーキで停止した。 「危ないじゃないか!」 「走っても大丈夫じゃなかったのかよ!」 突っ込むときだけは息ぴったりだった。 一方都合のいいときだけ、こっちに責任をのしつけられたエーリッヒはちょっとご立腹だった。 何故ならエーリッヒにはそんなこと関係ない。内容も責任ない。 『知りませんよ。アストロノーツの脚力全快で走るからじゃないんですか』 だから答えも適当で投げやりな感じだ。 全く子どもじゃないんだから節度を持って下さいよ、とのエーリッヒの冷たい反応に二人は一先ず我に返った。 「全くやって来てわずか一分で逸れそうになるとは、お前一体何しに来たんだ?軽いのは性格だけにしておけと前にも言ったはずだがな」 「デートの癖に即効第一アトラクションで逸れてる駄目男の、尻拭いにじゃね?リーダーこそ最近行動・言動ともにちょっとアホっぽいぜ」 ……………… 「「フフフフフフフ、ハハハハハハハ」」 まさに一触即発な雰囲気。 地の底から響き渡るような二人の笑い声を耳に留めたエーリッヒは「さっきの注意は全く届いてなかったようですね」とやはりまた不機嫌になった。 なので少し懲らしめることにした。 『一々喧嘩しないで下さいよ。そんなにお互いが頼りにならないなら、お互いの手を引いて行けばいいんじゃないですか?』 それはつまり『手を繋げ』ということ。 「はぁ?バカ言うなよ!オレの手は女の子専用なの!」 「オレだって御免だ!オレの手だってレツ限定だ!」 『ああそうですか。だったら醜く装置の取り合いでもして誤って破壊して逸れて迷って野垂れ死にでもするがいいですよ。宇宙飛行士候補生が空も見えない一アトラクションで死亡。夢絶たれる。嫌な最後ですね。 でもここで死んだら三国家の責任問題で御二人の家族には膨大な慰謝料が届けられますよ。ああ、でも人間三日くらい食べなくてもなんとかなりますからそれだけいればさすがに脱出できるかもしれませんね。頑張って下さい』 「「……………………」」 どうする、オレ! 二人の心は一つだ。 所変わって再び烈とJ。 妨害のペースが落ちたようで、現在二人は戦闘モードを解除し、ただ普通にミラーハウスとしての道を歩んでいた。 「J君ごめんね」 「え、何が?」 しばらく黙って考え込んでいた烈が突然発した謝罪。 意図のわからないJは不思議そうな表情で烈の顔を見つめた。 「本当は、ここに来たくなかったんじゃないかなって思ってさ」 「え?」 一昨日電話でブレットから行き先を告げられたときから、烈はずっと悩み続けていた。 J君をここに連れてきてもよかったのだろうか、と。 ここは、大神研究所でマシンを破壊し続けたJが、初めて表の舞台でその猛威を振るった場所だった。 純粋に走らせることを楽しむ皆のミニ四駆を傷つけなければならなかったとき、彼の心は特に痛かったんじゃないか、と烈はずっと思っていた。 その証拠にJは仲間になってからしばらくはどこか自分の殻の中に閉じこもっている節があった。 豪はそんなJを見て外に引っ張り出そうと、積極的にJの生き方に干渉していたが、烈はそうはできなかった。 烈はJが後悔と罪悪感にどれだけ苦しんでいるかを考えてしまったから。 だからそれに触れて傷つけたくなくて、烈は全てをJの自主性に任せることにした。 やがてリョウや弟の豪の後押しもあってJはミニ四駆に復帰した。 もちろんJが再びミニ四駆を始めると決めたときは一緒になって喜んだ。皆もそれを望んでいたし、嬉しかったから。 しかし同時にそれが新たにJを苦しめることになりはしないか一番心配したのも烈だった。 結果的にJは今とても楽しそうにレースをしているから良かったのだとは思う。 Jがミニ四駆を愛していることも知っている。 だけど不安なのだ。Jはあまり心の内を話したりしないから。 せっかく自然に笑えるようになったのに、ミニ四駆を楽しめるようになったのに。 過去を思い出されるような場所に連れて来られることで、Jがまた苦しむことになるのではないかと思うと、烈は怖かった。 中々その先の返事を返してこないJに烈は「立ち入りすぎかもしれないけど、ずっと気になって」と気まずそうに視線を逸らした。 「えーと」 一方烈の困った様子を前に、実はJも困っていた。 よもやブレットとのデート(もどき)の最中に烈がそんな深刻なことを考えていたとは思ってもいなかったのである。 しかし取り敢えず烈の言いたいことはわかった。 それを考えた上で、Jは「そういえば」とぼんやりとあの日からの日々を思い起こす。 烈や豪はJが友人になってから彼を色々な場所に連れまわした。 キャンプに海にプール、藤吉の別荘などJがこれまで体験したことのない楽しみをたくさん与えてくれた。 けれどここにだけは、いやここに限らず遊園地にだけは一度も連れて来られたことはなかった。 Jはそのことの意味を今漸く知った。 「そっか。うん、わかった。ふふ、はははは」 「じぇ、J君?」 「いや烈君がそれを豪君にどうやって納得させたのかと思うとちょっとおかしくなっちゃって」 烈は思わずそのときのことを思い浮かべた。 「なんでJを遊園地に連れてっちゃ駄目なんだよ、兄貴ー!」 「あのなぁ、ちょっとは考えろよ。トラウマになってるかもしれないだろう」 「虎馬って何だよ」 「こんのっっ馬鹿豪!」 バチコーン 「痛ぇっっ!」 「とにかく遊園地は駄目だ!もし黙って連れてったら兄弟の縁を切るからな!」 「ってJ君、僕は真面目に言ったんだけど」 なんかはぐらかそうとしてない?とちょっと怖い顔をして迫ってくる烈にJは若干笑みを噛み殺しながら弁解した。 「ごめんごめん。でも今までそんなこと考えたことなかったから」 「本当?」 あくまでも疑いの姿勢を崩さない烈にJがわずかにたじろぐ。 「えーとちょっとだけ、嘘かな?」 「どっちなの?」 常にない烈の激しい追及に、あやふやなままにはできないことを悟ったJは観念してきっちり自分の思いを話すことにした。 「やっぱり初めに行き先を聞かされたときは思い出したよ。僕は自分のしてきたことを忘れたわけじゃないから」 自分の答えに烈が苦しそうな顔をしたのを見て、Jはこれはちょっと意地悪だったかな、と烈にすまなく思った。 でも仕方がない。それは事実だから。嘘を言う方が烈に失礼な気がして、Jは包み隠さずそのまま正直な自分の想いを語った。 「でも大丈夫なのも本当なんだ」 「どういうこと?」 「それを上回るくらい、ここいには大好きな思い出があるってこと」 大切な、大切なことを教わった場所。 「ここは、烈君と豪君と初めてちゃんとレースできた場所でもあるよね」 「あ…」 「忘れないよ。どっちも大切なことだから」 たくさんのマシンと人を傷つけたことも。ゴールした瞬間に見た光も。 Jの笑顔に烈は自分の心配が無用のものであったことを悟った。 本当に大丈夫だったんだ。 心の中で豪に「ほーら見ろ!兄貴は考えすぎなんだよ!」と勝ち誇られたような気がして烈は苦笑を漏らした。 「J君って…意外と逞しかったんだね」 「皆といれば自然とね」 「そっか」 Jだってあのあくの強いメンバーの中で違和感なくやっていけているのだから、只者であるはずもなかったのだ。 「余計な口出しだったかな」 「そんなことない。烈君は豪君とは違うやり方でいつも僕のこと心配してくれてたんだよね」 心配されることを心苦しいじゃなくて、嬉しく思えるということ、僕はもう知っている。 「だってJ君は僕の大切な友達だよ。幸せでいてほしいと思うのが当たり前じゃないか」 「でも僕だって同じだってこと忘れないでね。今度は僕が烈君の手助けになる番なんだから」 「頼りにしてるよ」 今も右手にある温もり。 そしていつもその傍に在るもう一つの手。 烈君と豪君。二つの手が、あの時海に深く沈んだ僕と僕の心を引っ張りあげてくれた。 今度は僕が手を差し伸べたい。 豪君にはちょっとずつ手を伸ばしてきたけど、烈君はあんまり頼ってくれないからまだまだこれからだ。 「ふふ」 「あは」 結局自分達はお互い他人のことばかり心配している。 烈とJはなんだかそれが無性におかしく思えて、しばらく笑いながら歩み続けた。 二人の心は陽だまりの中にいるかのようにとても暖かかった。 あははははははは 耳元に響き渡るたいそう楽しげな二人分の笑い声。 そこにそっと小さな声で無線からの声が響いた。 『エッジ』 「何も言ってくれるな。わかってるから」 『ブレットにご愁傷様と伝えてください』 「言えるか」 ミッション変更。目標レツ・セイバより移行。真っ直ぐゴール地点へ。 あんな純粋に麗しき友情オーラ出されて、その邪魔ができるか? NO 「何だ。エッジ?エーリッヒは何だって?」 「……頑張れってよ」 「そうか?言われなくても頑張っているつもりだが。とにかく早くレツと再会したいものだな」 リーダー、哀れな。 しかしそう思うエッジ自身も結局エーリッヒ怖さに手を繋いでいる辺り充分哀れだ。 「そう言えばレツの方はどうしてるだろうか?」 ギクリ。 「そう言えばお前もレツの盗聴器を持ってたんだったな。ちょっと貸してくれ」 「だ、駄目だ、ブレット。それだけは絶対できねえ!それがあんたのためだ!」 「おい、それはどういうことだ」 「とにかく諦めてくれ!」 「お前何か隠してるだろう。よこせ!」 「無理!」 「いいから渡せー!」 「駄目だったら駄目だっつーの!無線機が壊れる!モニタも壊れる!」 はぁはぁはぁ 「オレ達、なんでこんなことになったんだろーな」 「さあ、な」 二人は仲良く手を繋ぎ直し、ただ黙々と進行を再開した。 「フ」 「ハハ」 不毛だ。 ブレットとエッジはなんだか無性におかしい気分になって、しばらく笑いながら歩み続けた。 二人の心は極寒の吹雪の中にいるかのようにとても寒かった。 その頃野菜畑の野郎どもがどうしていたかというと。 『ちょっと待ったあ!そこのお嬢さん』 『こっから先は調整中です』 『関係者以外立ち入り禁止。少々その場でお待ち下さい』 英語ペラペラな特殊エージェント達は金髪女性の前に立ち塞がっていた。 「Why?Who are you?」 突然現れた怪しげな野菜に女性は訝しげな表情を隠しもせず詰め寄る。 『『『ここの関係者です』』』 「Don't tell a transparent lie,vegetables!Remove!!」 本当のことを言っただけなのに、彼女はものすごく責めて来た。 いわく「見え透いた嘘をつくんじゃねぇ、この野菜ども!退きな!」と。 本当はもっと丁寧な台詞回しで、口調は彼らなりの自己解釈だったが、サングラス越しに窺えるその鋭い眼差しは確かにそう言っているような気がした。 『だ、駄目ですってば!』 『本当に関係者なんですって』 『ちょっ、本当この先はまずいんで…ってとにかく止まって!お願いだから止まって下さい!』 野菜野郎どもの叫びが響き渡る。 なんとかここだけは死守しなければ。 引き摺ってでも道を通ろうとする金髪女性とそれを必死で留める野菜達の長く苦しい戦いが始まった。 「なぁなんかおかしくないか」 「えー何が?」 慌てふためく野菜野郎どもとブレット・エッジが手を繋ぐ光景を見て、ミハエルは画面を指差し「確かにこっちはおかしいけどねーあははははははは」と大爆笑していた。 「いやおれ達、烈兄貴のデートの邪魔をしにきたはずだよな」 目の前でなんだか良い雰囲気になっている兄と友人の姿を見て豪はハテナと首を傾げた。 「うんそうだよ。僕達はブレットと烈君のデートの邪魔をしに来た。だからちゃんと二人を引き離してるでしょ?」 何もおかしくないじゃないというミハエルの言に豪は少々混乱した。 「え?う?あ?そっか?確かにそーだけど、でも…Jと仲良くて、なーんか違うような」 「何も違うことはない!ゴー・セイバ!」 「その通り!ちゃんと邪魔できてる!何にも間違ってない!ゴー・セイバ!」 「「これが正しい姿だ!」」 「お、おう。そ、そーだな…」 小柄な日本人から見れば自分達が大柄で、凄めばそれなりの迫力を持つということを知っていた二人はそれを最大限に利用して豪に強制的に頷かせることに成功した。 ただし豪は説得された後小さくこう呟いたわけだが。 なんかちょっと怖かった、顔が。 顔かよ。 どうやらポイントは身体の大きさにはなかったようだ。 地味にショックを受けた二人だったが、この際納得の理由などなんでもよかった。 もちろんヘスラーとアドルフは〈烈の〉デートを邪魔をしようとする豪と〈二人の〉デートを邪魔しようとするミハエルの若干の認識の違いに 気付いてはいたが敢えてそれを豪に告げるような親切な愚行は犯さなかった。 だってこれ以上ややこしくしてほしくないし。 もうすぐ彦佐がやって来る。四人は速やかに撤収へと動き出した。 数分後、彦佐が三国機動隊を引き連れドアを破壊したときには既に犯人の姿はなく、画面上ではただただJと烈が幸せそうに笑っていた。 |
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ラブラブです。Jと烈が。え、趣旨が違う?まぁ幸せそうだからいいではありませんか。ちなみに『山田君、座布団…』は某番組〈笑●〉から。 何故エーリッヒが知っているのか。烈が日本語の勉強にどうぞとビデオを貸したのではないかと。って私の中で兄貴は落語を見ているのか?! |