|
「ホンマはカオルより強いやろ」 何を突然言い出すのか 未だ理解の範疇が及びきらない、足元に鎮座するピンクの物体の発言に 心の中で『げっ』と悪態をついたのはここだけの話である。 |
|
++解析ってかなりの反則技++
ハワードの叫び声に呼ばれて駆けつけてみれば そこにあったのは確かに巨大ではあったが、ただの死体で ピクリとも動かないそれを前にもちろん逃げる必要はなく、幸いにも他の動物が呼び寄せられた気配もなかったが、皆の目線は冷たかった。 「ま、完璧に死んどるな」 念のためチャコはセンサーで解析をしてみたが、当然生命反応はない。 「ま、この爪痕じゃねぇ」 ダメ押しのように、シンゴが動物の傷跡をまじまじと覗き込んだ。 静かに佇んでいたシュラがそこでくるりとハワードに向き直った。 「ハワード」 「……はい」 「何かな?これは」 「……死体です」 「死体は動くのかな?」 「……動きません」 「危険なのかな?」 「……危険じゃないです」 「じゃ、君はこんな危険な動物がいっぱいいる森で、単に驚いてあんな大声を出したと?声に反応して襲われるかもしれないのに?他の動物まで呼び寄せて、更に危険になるかもしれないのに?僕達も巻き込まれるかもしれないのに?特に意味もなく叫んだと?」 「……これは避難訓練だ!!!」 「よぉしよく言った。歯を食いしばれ」 ボコッ 「いっっってええええええっっ!!!」 「大げさ」 頭を抑えて大げさに飛び跳ねても、シュラの目線の冷たさは変わらない。 これも最早見慣れた光景と、そんないつものやり取りを繰り広げる2人を尻目に、チャコとシンゴは真面目にこの事態に向き合っていた。 「でも、これってちょうどいい機会かもね」 シンゴが眼鏡を掛けなおし、横たわる死体に再び目を向けた。 「せやな。やってみるわ」 これほど大きな動物をまじまじと観察できる機会は滅多にない。 他の動物が寄ってくる前にと早速取り掛かっては見たが、 「うーん」 結果は芳しくない。 「ないの?」 問いかけてくるシンゴは簡単に出される回答には納得がいかないらしい。 シンゴも頑固やからな… チャコは内心溜め息をつきながら、更に念のためと体の端から端までスキャンしようと試みるも 「こりゃちょっと厳しいで」 「どういう意味で?」 「でか過ぎて一ヶ所からはスキャンしきれん。足と背中は異常なし。後、頭と腹は最低見てみんとな」 「腹は厳しくない?」 うつ伏せで死んでいる巨体をひっくり返すには相当の労力がいりそうだが 「男が三人もおって何弱音吐いてんねん。きばりや」 「えー、やっぱり僕らがやるのぉ?」 シンゴはブツブツ文句を言いながらも検証を諦める気はないのか、うな垂れながら未だ揉める2人の方へと近づいていった。 「シュラとハワードも手伝ってよ」 揉めてはいてもちゃんとこちらの話は聞いていたのか、シュラは即座に何のことか把握したようだった。 「だってさ、ハワード。さっきのペナルティね」 『あれ、ひっくり返すんだってさ』と死体を指差した後、すっと身を引くとハワードに背を向けてチャコの方へと足を進めた。 「っておい!お前は手伝わないのかよ!!」 体の小さいシンゴと2人で大仕事を任される自分の負担を察知したのか、即座にハワードはシュラに噛み付いたが 「僕か弱いもん。無理」 「誰がか弱いだ!誰が!」 「って言っても本当に僕じゃあ非力すぎて戦力になんないし。しかもすごく疲れてるんだもん」 「僕だって疲れてる!」 「そもそも無駄な騒ぎを起こして体力を消耗させたのは?」 「うっ!」 「だから、ペナルティ」 「……」 ぐうの音も出ないハワードに、次にシュラはにっこりと笑みを返した。 「大丈夫、ハワードは自分が思ってるより力あるから。自分を信じて」 「そ、そうか?」 少し浮上するハワード 「そうそう、これ貸したげるから。ほらファイオーファイオー!」 「ぅぇえっっ?!」 シュラが持っていた竿のような棒を渡され、促され、逃れる間もなく梃子の要領で死体の下に棒を差し込まされ、力を込めてしまう。 「それファイオーファイオー、シンゴもそれファイオーファイオー」 「ええ!僕も?!」 「当然、疲れてる僕を無理やり引っ張り出したのは誰だったっけ?」 「ぅうっっ」 それを呆然と見ていたシンゴも即座に巻き込まれる。 「それファイオーファイオーファイオー!」 「「ファイオーファイオー!!」」 何故かうまく丸め込まれた2人は顔を真っ赤にして力を込め続ける。 対してシュラは声をかけるのみで、手伝う気配はない。 涼しい顔で応援を送り続ける。 チャコは呆れた眼差しを送りながらも、『人をのせるのがうまいやっちゃなぁ』とシュラを観察していた。 もちろん自分も手伝う気はない。 貴重なエネルギーを大した戦力にもならない力仕事で消費する気もない。 元々無理やり連れて来られた身 そこまでしてやる義理もなかった。 きっとこいつもそうなんやろな 同じく半強制的にここにいるもう一人 しかし自分と唯一違うのは 「お前、ホンマはカオルより強いやろ」 戦力になるか否か、だ 決して大きな声ではなかったが、すぐ隣にいる相手には充分聞こえたらしい。 目を丸くしてこちらを見たのは一瞬 彼はすぐに笑みを零した。 「面白い冗談だね」 いつもの笑顔 ただし 「嘘笑いはすぐにわかるで」 そう、いくら子どもっぽく振舞ってはいても、感情的に見えても 「ウチはロボットやさかい。そういうんは通用せんで」 ルナたちとは違う。 「解析すれば、ホンマに感情が高ぶってんのかくらい簡単にわかる。今のは単に誤魔化すための苦笑いや。全然笑っとらん」 何でもないことのように指摘すれば、相手もさすがにこれ以上は無意味だと悟ったらしい。 「いつから気付いてたの?」 肩を竦めて白状した。 「結構前からやな。お前が実際戦うんは見とらんけど、筋肉やら筋やら骨やら解析したら鍛えとることくらいすぐわかる。筋肉の量からしてカオルより多いし、畑仕事を手伝っとるときも言葉の割には疲れが見えへんだし、普通の子どもはあんな風に動いとるもんにナイフを当てたりはできへんで」 一息に指摘をされてしまえば、いつも飄々と切り抜ける少年もさすがに白旗を揚げるしかない。 「ロボットってのはすごいもんだね。注意はしてたけど、既に解析されてるとはまさか思わなかったよ。手のセンサーさえ避ければわかんないと思ったんだけど」 「細部まで調べよ思うたら手の方がええからな。けど実は目だけでも大まかにはわかるんや」 「それはさすがに考えなかったなぁ」 苦笑する少年は、皆の輪の中にいるときよりひどく大人びて見えた。 「ウチの他にも何人かは違和感感じとるんと違うか?」 「かもねぇ」 「隠してんのかと思えば結構杜撰やな。そもそも何で隠すん?」 「チャコってストレートだなぁ」 「心配すな。聞いても誰にも言う気ぃあらへんし、お前を疑っとるわけでもない。むしろあのメンバーの中でお前のこと一番信用してるのはウチやと思うで」 「へぇ」 「意外か?」 「まぁね。むしろ1,2を争う勢いで疑われてたかなって思ったからさ」 「さっきも言うたやろ。ウチはロボットや。人間、ましてや子どもとは違う。隠し事が許せんなんて青臭いことは言わんで」 人にはそれぞれ事情がある。 全部が全部曝け出せというのは無理な話だ シュラにそういう部分があってもそれは仕方のないことと割り切っている。 「じゃ、その調子でそっと触れないでくれると助かるんだけど」 「一人くらい事情を知っといた方がええんとちゃうんか。必要ないなら聞かんけど」 それが意外と確信を突いていたのか、しばしの沈黙の後ボソリと呟いた。 「頼られすぎると困るから、かな」 それは概ね予想していた答え だが自分が知りたいのはそこではない 「なんで困る?」 「いついなくなるかわからないから、かな?」 これにはチャコも度肝を抜かれた。 「お前!帰れへんのちゃうかったんかい!」 それでは隠す以前の問題である。 帰れるなら何故ここにいるのか! 「いや明確な方法があるわけじゃないよ。でもみんなみたいに絶対的な物質が必要なわけではないし、時空の歪でここに飛ばされただけだから、何かの拍子に元の世界に引き戻される可能性はなきしにもあらずなんだよ」 チャコはその答えに違和感を抱いた。 「お前もしかして前にもどっかに飛ばされたことあるんか?」 「結構頻繁にね…さすがに世界を跨いだのは初だと思うけど…」 後半は自信がないのか語尾が消えていった。 たぶん、ないよね?いやでも気付いてなかっただけかも… など物騒な話が聞こえた気もしたがそこはスルーする。 「つまりいつ帰るかわからんのに頼りにされて、いなくなった後行き倒れられても困ると」 「まぁ端的に言えばそういうことかな。もちろん面倒なのもあったけど」 だって人数的に多すぎない? 結構ひどいことをおどけて言う少年の神経は多少どうかと思う。 「幻滅した?」 しかし 「ウチもそこまでお前を当てにしとるわけやない。ある程度はカオルが見てくれとるみたいやし、ルナやベルも多少は森に慣れとる。ただ皆はまだ子どもで不安定やから」 お前が全体を冷静な目で見てくれとる方が安心できる 「あんまり信用されても困るんだけどなぁ。てかチャコは何でそんなに僕を信用してくれてるのかな」 「んなん決まっとる。お前はあのハワードですら見捨てとらん」 キッパリと言い切った。 「ええー、まさかのそこ?」 「結構大きいと思うで。長いこと一緒におればおる程うっとおしさが際立ってきよるからな。それを一応面倒みとるのは充分信用に足るやろ?」 かなりのひどい言い草ではあったが、説得力は充分にあったようだ。 「たまにすごく見捨てたくなるけどね…」 ポリポリ頭を掻きながらも「一応あんなんでも死んだら寝覚めが悪いし」と言うからには、やはり見て見ぬふりはできないタイプの人間なのだろう。 自分の目に間違いはなさそうである。 だがチャコはそれでもわからないことがあった。 「頼られたくないっていう理由だけなら、棲家までわける意味はないんとちゃうんか?」 「それも言わなきゃ駄目?」 「言えへんのか?」 「てか言いたくない、かな」 どうやらこっちは本当にタブーらしい。 「じゃ、そこは聞かんかったことにしとくわ」 「助かるよ」 「その代わり一つだけ条件がある」 「……これだよ。だからチャコには借りを作りたくなかったのに」 はぁ、と溜め息を漏らしながらも断れないことはわかっているのだろう。 「何?」 「ウチ、足が短いねん」 「見たらわかるよ」 「レディーになんちゅう言い草や」 「だって見たらわかるし」 「お前もてへんで」 「そうでもないよ」 「……まぁええわ。話が進まん。この通りの長さやから歩幅も当然短い。動物とかに追いかけられたら、体力は関係ないけど、スピードが圧倒的に足りへん」 「まぁ、そうかもね」 「逃げ切れへんだら多分誰かが担いでくれるとは思うけど、そのせいで誰かが怪我でもしたら目も当てられへん」 「つまりいざというときは僕に担げと?」 「そういうことや」 「面倒だなぁ」 「軽い条件やろが」 「だけならいいけど、大抵そういうときは他に面倒を起こす奴がいるからねぇ」 思わずそちらに目をやると、偶然その元凶と目が合ってしまった。 「お前らもくっちゃべってるだけならちょっとは手伝えよ!」 「そうだよ!普通に僕らだけじゃ無理だよ!」 ハワードだけでなくシンゴにまで言われては手伝わないわけにもいくまい。 シュラとチャコは肩を竦めて、奮闘する2人に歩み寄り、巨体をひっくり返すべく共に棒の端を握り締めた。 「どう?」 「やっぱりどこにもあらへん」 ひっくり返してみれば、それは見慣れたトビハネで、隅々まで調べては見たがやはり見つからなかった。 探していたのはナノプラント それがないと言うことは 「やっぱりあのカニが特別だったってことかな」 「の可能性が高いかもね」 一匹だけでは何とも言いがたいが、少なくとも巨大な動物全てが操られてる、というわけでもないらしい。 これ以上このトビハネから得られる情報はなさそうだった。 「そろそろ進もか」 ぴょん、とトビハネから飛び降り森へと進もうとすると、後ろから呼び止められる。 「チャコ」 「何や?」 「僕もついでに言いたいことがあるんだけど言っていい?」 「早言えや」 「じゃ言うけど、ここってどこだろう?」 「「「はあっ?!!」」」 チャコだけではなく、他2人の悲鳴も重なった。 「どこって、お前が道案内してたんだろうが!」 「そうだよ!道分かってると思ったからシュラに案内頼んだんだよ!」 「まさか迷ったっちゅうんか!」 「3人とも近すぎ」 詰め寄る3人の顔を押し戻すシュラは落ち着いたものだ。 というより発言と態度が全く合っていない。 ここは焦るところである。 「道はちゃんと覚えてるよ。ちゃんと樹に印も付けてたし、あの時一回は往復してるわけだし、道を間違えた覚えもないよ」 「なら何でそんな発言になるんだよ!」 「普通ならそろそろ川に出てるはずなんだけど、全然見えてこないし、水の気配がしない。おまけにさっきここに来る前に歩いてたところに生えてた木。僕が森から出るときに付けた印にそっくりだった」 「それってつまり」 「考えたくないけど、同じ場所に戻ってるってこと?」 「じゃあやっぱり迷ってるんじゃないか」 「シュラが言いたいのはそういうことじゃないよ」 「言っとくけど僕の方向感覚は悪くないよ。ここに来る前も旅の途中だったし、道を間違えたときはなんとなくわかる」 「つまり?」 「道の方がおかしいんだ。気付かない内に惑わされてるかもしれない」 「お前、素直に自分の非を認めろよ」 「ハワードと一緒にしないでくれる?ちょっと黙ってて」 「……はい」 「つまり意図的に迷わされてるて言いたいんか」 「うん。やっぱり変だ、この森」 「って言っても、どうしたらいいの?この場合」 「……むーん」 遺跡に辿り着くことはもちろんだが、このままでは帰ることも怪しい。 引き返すべきか、進むべきか ガサッ 「ちょ、うるさいな、じっとしとれ」 またハワードか ホンマに堪え性のない奴っちゃ 人が考え事をしてるときくらい大人しくしていられないものか ガササッ 「だからじっとしとれ言うてるやろが!ハワード!」 「何だよ。僕ならこっちだぞ」 「へ?」 聞こえた声は後ろからで ということは、正面から聞こえるこの音は ガササササッッ 「グオオオオオオオッッ!!!」 飛び出してきたのはグリズリーに似た巨大な生き物 「あいつがやったんだ!」 巨大な爪 それはトビハネにあった傷と同じくらいの大きさだ つまり一撃で、ああなるということ 「逃げるで!」 チャコの声で一目散にハワードが走り出す。 次にシンゴが続き、約束通りシュラはチャコを抱えこむ。 「まさか早速使われることになるとはね」 「のんびりしとらんとさっさと走れいっ!」 「はいはい、と」 言うが早いかチャコを抱え、軽々と走り出すシュラ やっぱり只者ではなかったなと思いながら、前を行くハワードに目を向けた。 何やら叫び声を上げている。 何ぞ別のもんを呼びよせんでくれよ… 思った瞬間にまたも声が上がった。 今度は何だと思いきや、続いて聞こえたのは聞き慣れた声 「ハワード!」 「シンゴ!」 「シュラ!チャコ!」 茂みから現れたのは本当に見慣れた面々で 「何でルナたちがこんなとこに?!」 しかも最悪のタイミングだ。 「何でって貴方達を探しに……」 「さっさと逃げいっ!!」 「「「は?」」」 状況を説明してる暇はない。 「あれ」 端的に指し示すシュラの指先を見た面々は、すぐさま踵を返して走り出した。 しかし集団で逃げているためうまく撒くこともできず、つかず離れずグリズリーは諦める気配がない。 「シュラ!これは非常時や!なんとかせえ!」 「……うーん」 乗り気ではない声に、何か考えでもあるのかと勘繰る。 すぐ隣ではルナとメノリとハワードが揉めている。 「このままでは追いつかれる!」 「何か聞こえないのかよ!」 「……だめ」 「肝心なときに!」 その会話を聞いてまさかと思う。 「お前もしかしてピンチになったらあの声が聞こえへんかな?とか思ってんちゃうやろな」 「えへへ」 へらりと笑った顔が答えだった。 「んな表情しても可愛いないんじゃー!この仁非道が!命かかっとるときに暢気に実験すな!!」 「いやちゃんと助けるって。本当に危ないときはさ。でも多少のリスクがないと声の主も出にくいかもしれないし」 「その前に一人か二人犠牲になっとるわ!」 チャコが叫んだその瞬間、やはりというか間の悪いことにハワードが足を縺れさせた。 「ハワード!」 ベルの声に振り返れば、見事に転んだハワードがグリズリーに狙いを定められていた。 反射神経は悪くないのか、ハワードは咄嗟に岩陰に飛び込んだ。 しかしそこは逃げ場のない行き止まりで すぐに後を追ったグリズリーによって入り口が塞がれてしまった。 「今がホンマに危ないときと言わんでいつ言うんや!」 「なんとかしろって言われても、そこまでは期待しないんじゃなかった?」 「悠長なこと言うてる場合か!ハワードが死んでまうやろ!」 この状況では小細工している暇はない。 「あのナイフでなんとかせい!」 「今の場合は無理だ!あの巨体じゃあ目くらいしかダメージを与えられない!こっからじゃあ狙えない!」 「ほんだらそれ投げればええやろ!」 シュラが持っているそれは先ほど梃子に使った棒。 使い込まれた気配のあるそれは間違いなくシュラの武器だろう。 確かに結構な重量のあるそれが当たれば、グリズリーを昏倒させることもできそうだ。 「これ投げると非力な少年の顔がしづらくなるんだけど」 「ハワード!」 「ひぇえええっ!!」 間一髪、グリズリーの爪がハワードの顔の僅か横の岩を抉る。 メノリとハワードの悲鳴にほんの僅かな猶予もないことを悟る。 「シュラ!」 「仕方ないか…この場合」 「でぇえええいっっっ!!」 シュラが腹を決めたそのとき、一陣の風が空を切った。 シュルルルル 空を切ったモノの正体は紐が括り付けられた石 つまり手製の投げ石 それが見事にグリズリーの口に巻きつき、鋭い牙を封じ込める。 「逃げるわよ!」 それを投げた張本人は既に駆け出しており、岩陰からハワードを引っ張り出すと一目散に駆け出した。 皆それに促され、後に続く。 シュラは思わず無言でそれを見送ってしまった。 「……チャコさん」 「……なんや、シュラ」 「お宅の娘さん、どちらのジャングル育ちでいらっしゃるんでしょうか」 「ええと、一応大半都会育ちなはずやけども…ウチも自信なくなって来たわ」 などと歓談している間にグリズリーが縄を引きちぎった。 「とりあえず逃げようか」 「やな」 「僕の助けなんていらないんじゃないかなぁ?」 シュラのぼやきは聞こえなかったことにした。 「こっちよ!」 皆に追いついた途端に響き渡る指示 先頭を走っているのはルナ 迷いなく指示を出しながら走っていく姿は、まるで逃げ道を知っているかのようで 「もしかして例の声聞こえてるんじゃない?」 隣でシュラがポツリと呟いた。 「また聞こえるようになったんか?!」 返事の代わりに新たなる指示が飛んだ。 「みんな!行くわよ!」 示す先にあったのは 「バカ言うな!崖じゃないか!」 「ええいっっ!」 ハワードの制止を振り切り、ルナは崖の下に真っ逆さまに飛び込んでいった。 「ルナ!!」 駆け寄って覗き込んだ全員の目の前で、ルナの姿はまるで煙のように分解され消えていった。 「ど、どうなってんだ?」 呆然とするハワードを他所にメノリ、シンゴ、ベルは即座にその後に続く。 「我々も行くぞ」 「うん」 「ああ」 次々に崖の下に消えていく面々 「……チャコさん」 「……何や」 「お宅のお子さん達、本当どういう教育受けてるんですか」 「都会の普通の学校……ウチの勘違いやったかもなぁ」 とりあえず普通都会育ちの子どもは、躊躇いなく崖には飛び込まない。 「ここに飛び込めって結構鬼だよ」 「言うな」 「みんな肝が座ってるね」 ポン 軽く叩かれた肩がやたら重く感じるのは何故だろう。 ロボットなのに 哀愁漂うチャコの隣では、例の如くハワードだけが躊躇いをみせていた。 「ちょっ、ま、待ってくれよ!いくらなんでもこんなとこ、飛び込めるかよ!」 ある意味普通の感性である。 珍しくハワードの存在に癒されたチャコだったが 「ブツブツ言ってないで早く言ってくんない?」 「うわあああああああっっ!!」 一瞬後には蹴落とされて落ちていった。 やっぱりシュラの方がもっと鬼だと思う。 その事実にちょっぴり安堵しながら、シュラに続きチャコも崖下へと飛び込んでいった。 *************** 「遺跡だ!」 気付いたときにはそこは遺跡の目の前の泉で 「どういうことなんだろう?」 「全て、まやかしだったということか?」 「ってことはメノリたちも迷っとったんか?」 「ええ。途中から川を見失ってしまって」 「不思議すぎるよ」 「全くわけがわからないぞ!」 「まぁいいじゃない。無事着いたんだから結果オーライでしょ」 それぞれ疑問が口を突く中、その少年だけは至って能天気だった。 「シュラ、お前なぁ……」 チャコが呆れてそちらに目を向けた瞬間、泉の真ん中が急激に競り上がり始めた。 「ま、まさか」 ハワードが顔色を青くする。 以前遺跡に来たときには、カニの怪物が出た。 つまり今回も出ない保証はない。 「出たぁ!カニだ!!!」 ハワードの叫び声と共にそれは再び大きな姿を曝け出した。 皆が逃げ出そうとする中、何故かルナは立ち上がりカニに正面から向かい合った。 逃げないルナに狙いを定めたカニがその爪を振り下ろす。 気付いたチャコが悲鳴をあげた。 「何してんねん!ルナ!」 「待って!」 「止めなや!シュラ!」 「違う!」 ルナに届く直前で凶器と化した爪はその動きを止めた。 まるでルナの声が届いたかのように そしてカニはそのまま動きを再開することはなかった。 「助かったぁ」 ハワードの声にようやく平穏が戻ったことを認識した。 「何で、止まったんや」 あまりの展開に安堵で座り込んだチャコが呆然と呟く。 「呼ばれてるからじゃない?」 それは何気ない呟きだったが、妙にチャコの耳に強く残った。 「行きましょう。私たちを呼んでる」 ふらりと立ち上がったルナは、まるで吸い寄せられるように遺跡へと近づいていった。 続く好奇心旺盛なシンゴは見たこともない様式の建物に興味津々なようだ。 「この中にいるかもしれないんだ。すごい文明を持った人間が」 「あんまり無闇矢鱈に触ったらいかんで。どんな危険があるやらわからん」 チャコは注意してみたものの、建物の周りを一周した後その考えを翻した。 「入り口らしいもんがあらへんで。これ」 となると、やはり触ってみるしかないが 躊躇っている間にルナが突然遺跡に向かって手をかざした。 とたん眩しい光が辺りを包んだ。 「遺跡が、光ってる……」 呟いたのはシュラの声で、その声色は静かだったがさすがに驚きの色が含まれていた。 光は遺跡に彫られた模様を駆け巡り、そしてその壁の一部がゆっくりとスライドし始めた。 「と、扉だ……」 「開いた……」 「行きましょう」 まるで導かれるかのように進んでいくルナ 「ちょっ、待ちいや!ルナ!」 ルナは確かに無鉄砲なところはあるが、こんな何があるかわからない場所に何の警戒もせず突き進むような無用心な性格ではない。 でも今のルナには何の躊躇いも見えなくて、それはまるで何かに操られているかのようで 本当にここに来てよかったのだろうか? チャコは今更になって言い知れない不安を感じた。 「だったら、尚更君がついててあげなきゃ」 ポン、と肩を叩かれ振り向いてみれば、何時もの如く飄々としたシュラの顔がそこにあった。 「君が保護者なんだろ?危ないときは君が止めればいいさ」 「……言われんでもわかっとるわ」 子どもの癖に知ったようなこと言いなや、言おうとしてふとチャコは思った。 もしかしたら、シュラは子どもではないのかもしれない。 醸し出される雰囲気に、一瞬だけだがルナの父の姿が頭を過ぎった。 『ルナの傍にいてやってくれるかい?』 蘇る遠き日の思い出 だけれどその理由は今、口に出すべきではないのだろう 詮索はしない 自分はシュラにそう約束したのだから 癪ではあるがシュラの言うとおり 傍にいる それこそが自分の存在意義なのだから 今度こそルナのことだけに頭を切り替えると、見慣れたオレンジ色の髪を追いかけた。 「人だわ!」 そして遺跡の奥では無人島の生活に、新たなる局面が訪れようとしていた。 |
| to be continue… |
|
チャコさんはやっぱり見抜いておりました。目で解析できるかどうかなんて知りませんけどね…話の都合上そう設定しておきました。でも本当に見るだけで解析されてたらそりゃ反則ですよね。次はやっと登場人物が増やせますね。本当長い道のり |