++グルグルラビリンス〜厄介なもの作ってんじゃねえ〜++





「で、結局あれは何なんだ?」
 抓られて赤くなった手の箇所を悲しそうに見つめながらブレットは烈に再度尋ねた。
「さぁ要するにミラーハウスみたいなものなんじゃないの」
「鏡の家?」
「壁が鏡でてきてて、簡単な迷路みたいになってるだけだと思うけど……藤吉君、それで合ってる?」
 ブレットに更なる解説を求められ、合っているのかどうか不安になった烈は確実な回答を齎してくれる本家本元へと質問を送った。
「ああ、あれはでゲスね……」
「ストップ、言うな!」
 しかしこれに答えようとした藤吉の声は質問の元となった人物によって遮られた。
「はぁ?知りたかったんじゃないの?君が聞くから藤吉君に聞いてあげたのに」
「レツ、これは一応デートなんだぞ。わからないからって一々本来いないはずの第三者に聞いてどうする? 謎のアトラクションについて二人で想像を巡らしつつ『楽しみだね』とか言いながら会話を楽しむ。それがデートってもんだろう!?」
『気色が悪い』
『とんだドリーマー妄想男ですね』
 烈よりも早くピタリと息の合った二つの声が烈の心の声を具現化してくれた。
「うるさいぞドイツどもがあぁっ!用があるときはこっちから呼ぶ!意味もなく普通に会話に入ってくるな!」
『あんなこと言ってますよ』
『自分から頼んでおいてなんという言い草だ』
『ひどい男ですね』
『その心根が醜い』
『友達なくしますよ』
『友達は大事にしなきゃ駄目だよ、ブレッド君』
『おいブレット、言っとくが俺はお前の友達になった覚えはないから…』
 ブチィィッッ
 ブレットはこめかみを引き攣らせながらついに無線の回線を断ち切った。
「ちょっとブレット、こっちの回線切っちゃったら向こうから連絡が……って何すんのさ!」
 そのまま烈の制止を振り切り、烈の分の無線の電源をもオフに切り替える。
「あんな奴らはもう頼らん!」
 ブレットはまだ第一のアトラクションにさえ入っていないのに宣言した。
「けどフォローはどうするつもりなのさ?お姉さんは?」
「ミラーハウスの中なら姉さんの目につくこともない。あいつらのフォローなんぞ必要ない。行くぞ、レツ!」
 僕の身の安全はどうなるの?
 元々エーリッヒ達に来てもらったのは隣の男から自分を護衛するためであったはずだ。
 烈は思ったが、姉の目がないということは自分が正当防衛を行うことに障害ないということでもあるし、 何より迷路というアトラクションはやっぱりヒントなしで自力でクリアしたいという思いもあったので、まぁ今はこのままでもいいかとブレットに付き合ってあげることにした。
 烈も久々に遊園地で楽しめるということで少し浮かれていたのかもしれない。
 だから気付くのが遅れてしまった。
 人気の遊園地にそぐわない異様な光景に。二人は入り口目の前まで辿り着いてからやっとその違和感が何であるかに気付くこととなった。
「ねぇ、なんかこのアトラクションだけ異様に空いてない?」
「言われてみれば、随分すんなり入り口に来れた気が」
 おかしい。周りにはこんなに人が溢れかえっているのに、何故かここだけドーナツの空洞状態に人がいない。
 何名かがこちらを遠巻きに見ているような気がする。かと思えば多くはこちらを見てみぬフリをして避けて通っているような……。
 ようやく言い知れぬ不安を抱いた二人はやっぱり引き返すべきかと立ち止まった。
「はーい、ようこそグルグルミラーラビリンスへ!お客様お連れ様で?二名様ですね?当アトラクションは今すぐご利用いただけますよ」
 そのとき目の前に現れたハイテンションな受付のお姉さんが笑顔で齎したものは、不安。
「す、すぐ?」
「ほ、他に客はいないのか?」
「――――はい、パスポート確認いたしますね。おっけーでーす!どうぞご入場下さーい!」
 受付のお姉さんの鉄壁の笑顔はどんな質問でも崩せない。
 お姉さんに腕を鷲掴みされたブレットと烈は抵抗する隙もなくアトラクションの中へと引きずり込まれて行った。
 そして少々の間を空けて一人の女性がその後へと続いていった。



 ちなみにブレットと烈を遠巻きに見ていた何名かがどんな会話を交わしていたかというと。
「おい、誰か入ってくぞ」
「マジで?あいつら知らねーんじゃねえの」
「なんで誰も教えてやらなかったんだよ?」
「しょうがねーじゃん、直前まで入んのか、入んないのかわかんなかったし、隣の外人何か突然叫んだりしてて怖かったし」
「どっちにしても、あいつらもう駄目だな」
 という物騒なものであった。しかしそれを偶然にも耳に留めていた者が一人いた。
 もしこの会話を聞いたのがエッジだったなら
 ……駄目?駄目って何だよ、おい?
 ここ、遊園地だろ?遊園地なのに、何があるってのよ!?
 と、ツッコミを入れ、このアトラクションの危険性を感知し、今すぐ走って行って無理にでも二人に引き返すことを勧めることもできただろう。
 しかし残念ながらそれは彼ではなかった。今回この会話を聞いていたのはよりにもよってこの男。
 その彼はこの会話を聞き。
 …………駄目?そうか、駄目か。
 で、終わってしまった。
 シュミット・ファンデルハウゼン・フォン・シューマッハ。
 その人であったことは、二人にとって最大の不幸であった。



「あ、綺麗。ここは上下左右全部鏡なんだ」
「なんだ。別に普通そうなところじゃないか」
 入ってみればそこは何ら変わったところのない鏡の間で、ブレットはほっと安堵の息をもらした。
「でも方向感覚が壁だけ鏡のより更におかしくなりそう。それに建物も大きかったし、結構難しいんじゃないかな?」
 それでも烈はまだ不安が残るようで(何せ三国家が作った遊園地だ)疑り深く周囲を見渡した。
「迷路は迷路さ。レツ、不安なら手を繋いでいくか?カップルの定番だろう?なんなら腕組みでもいいぞ」
 しかしブレットの方は既にいつもの調子を取り戻したようだ。
「いらない。カップルでも手を繋がない人達だってたくさんいるよ。さ、先頭はブレットね。僕は後ろから付いていくから」
 烈の『付いて行きます』宣言にブレットは思わず胸を高鳴らせた。
「oh、知らなかった。烈はテイシュカンパク主義なのか!」
「君を後ろにしたらセクハラしてくるからだよ。わかったらさっさと前歩いて」
 ちょっと夢を見ただけなのに…
 にべもなく言いきられたブレットはしかし烈の指摘をあながち否定することもできず、ただ無言で前を行くしかなかった。



「周囲全部に幾つもの自分の姿が移るというのはかなり壮観な光景だ。レツ、本物の俺を見失わないでくれよ!」
 ―――――――――
 ん?おかしい。
 何痛いこと言ってんの?という烈のいつもの冷たいツッコミが来ない。
「レーツ、無言とは新しいパターンだな。それはもしや放置プレイというやつか?」
 素なのか、わざと怒らせようとしているのか、尚もふざけた台詞を繰り返すブレットにやはり答える声はない。
「レツ?」
 さすがに変に思ったブレットが後ろを振り向くと烈の声どころか姿自体が見当たらなかった。
「しまった!レツ、どこへ行ったんだ!?」
 そう言えばさっきから鏡には一人しか映っていなかった気がする。
 しかしレツは元々自分とは結構間を空けて歩いていたのでよもや気付かぬ内に逸れていたとは思わなかったのだ。
「影も形もない。これは完璧に逸れたとしか言いようがないな」
 だがまあ烈もゴールに向かっているはずなので、普通に進んでいればいずれは合流できるはずだ。
 この場合問題なのは混乱して迷ってしまうことだ。いや実はもう既に迷っているのかもしれない。
 冗談ではない。例えこのデートが望まぬハプニングから来たものだったとしても、チャンスはチャンス。
 烈とデートというこの貴重な時間を少しでも無駄にしたくないブレットにとって迷路に迷ってタイムロスしてしまうことが最も恐ろしいことであった。
「落ち着け、ブレット・アスティア…クールになれ。これはあくまで迷路だ。 道に迷ったときは左手の法則だ。壁伝いに歩けば必ずいつかは出られるように作られているはずなんだ。烈とも必ず途中、もしくはゴールで会えるさ」
 このときブレットはまだ事態を楽観視していた。



 三十分経過。
「な、何故だ…どうしていつまで経っても出られないんだ!」
 ブレットは一瞬『奴らに助けを求めるか』という考えが頭を過ぎったが、先ほど大きく啖呵を切った手前。
 できない。今更手の平返して頼るなどプライドが許さない。第一、その、格好悪すぎる。となればやはり自力でなんとかするしかない。
 そんなことはわかっている。しかし。しかし。今はそんなことよりも。
「レツーっっ!一体どこにいるんだあああっっ!カムバーッック!」
 ブレットが前言を撤回して助けを呼ぶ時は意外と近そうだ。



 一方園内のファーストフード店テラスの一角を経営者権限で貸切り、そんなブレットの叫びを盗聴機で聞いていた藤吉らはと言えば。
「そんな法則使えるわけないでゲスよ」
「どういうことですか?トウキチ・ミクニ」
「一定時間でミラーブロックは左右に変動する仕組みになってるんでゲス」
「どんだけ高度っっ?!」
 遊園地のアトラクションとは子どもでもクリアできる範囲であることが鉄則なのではなかろうか?
「ゴールするまでの間にどんどんコースが変わっていくってこと?」
 烈の方の盗聴器に耳を傾けつつも、片手間に会話に参加したJがエッジの不安を煽るかのようにわかりやすく現実を念押しした。
「ほう、では先ほど通行人Aどもが一度入ったら二度と出てこれない、と言っていたのはそういう意味か」
「怖あっっ!ってか何でそれを先に言わないんだよ!」
「もう出てこない者のためにできることなどあるまい」
「何既に諦めてんの!?」
 やばい、こいつかなりイラッと来る。ものすごい自己完結型だ。
 リーダーが常にこいつに突っかかっていく気持ちが今すごく理解できる。
「烈君も大分迷ってるみたい。さすが藤吉君って感じだね!これはすごいテクニカルコースだよ」
「Jも褒めてどうすんの!っつーか、客が出られねーじゃん!なんでそんなもん作んのよ!?」
 ここで褒め言葉を発する的を外したJの感性に表情を引き攣らせながらも、正論で責めるエッジの言葉に藤吉の目がキラリと光る。
「それじゃあエッジ君に聞きたいでゲス。誰もがクリアできるようなどこにでもあるようなアトラクションに客を集める力があると思ってるんでゲスか?」
「じゃあ聞くが、二度と出られないアトラクションに長時間閉じ込められて恐怖を味わった客が再度来訪すると思うのか?」

 間。

 どうやら再度のツッコミは藤吉にとって予定外だったようだ。
 しかし彼はこの年で一つの会社の社長さえ務める器の持ち主。ちょっとやそっとのことで己の負けを認めたりはしないのだ。
「……フッ、こっちは閉園時間ギリギリまで客を集めておけ、お客はギリギリまで楽しい遊園地にいられるでゲス。一石二鳥、何も悪くないでゲス」
「なかなかやりますね、トウキチ・ミクニ」
「鬼か、お前らは」
 やはり兄妹、チイコとの血の繋がりを感じさせる恐ろしい思考をみせる藤吉とそれに感嘆の声をもらしたエーリッヒにエッジはもはや脱力するしなかった。
 一通り会話が落ち着いたところでエーリッヒがブレット用盗聴傍受機を烈用のに付け替える。
 皆がそれに倣ったところでエーリッヒは今後の方針を打ち出した。
「このままいつまでも意地になっているブレットの来るかどうかもわからない要請を待つわけにも行きません」
 その時まるでエーリッヒの声に呼応するかのようなタイミングで、根気強い烈の方からもついに音を上げる声が聞こえてきた。
『ああっ、また行き止まりだし…ブレットの馬鹿野郎。藤吉君、ここやっぱり普通のミラーハウスと違うんじゃない?エーリッヒ君もそろそろ状況を説明してほしいんだけど』
「っとこのようにレツからもヘルプがかかりましたのでそろそろ救助に移るとしましょう。トウキチ・ミクニ」
「しょうがないでゲスね。本来救助は閉園まで受け付けないんでゲスが、今回は特別でゲスよ。彦佐、彦佐!」
 藤吉は懐から携帯電話を取り出した。
「お呼びでございますかお坊ちゃま、はい」
「烈君たちがグルグルミラーラビリンスで遭難しちゃったんでゲス。今すぐ現在地点をモニタリングする装置を持ってくるでゲス!」
「了解いたしましたです、はい」
「「「「?!」」」」
 すぐに応答した彦佐の声が意外と近くで聞こえる。と思ったらすぐ隣の広場で踊っていた魚の着ぐるみの頭が取れ、中から彦佐が姿を現した。
 やっぱり彦佐は神出鬼没である。
 着ぐるみを脱ぎ完全に人間に戻った彦佐は脱ぎ捨てた着ぐるみの胴体部から一つのアタッシュケースを取り出し、更に中から一台のノートパソコンより一回りほど小さい機械を取り出した。
 しばらくそれをカチャカチャいわせ、やがて表示された画面の方を藤吉達の方へと向けた。
「これが現在のラビリンスの全体図になりますです、はい。こちらの図はコースの変更に合わせて自動的に更新されます。 この丸い点がラビリンス内にいる人々の現在地点になりますです、はい。現在内部の人数はお二人を含め六名。わかりやすいよう管理室のモニタで姿を確認させ、烈様を赤、ブレット様を青で表示いたしております。 念のため例の女性の位置も他の緑と区別して黄色で表示しておりますです、はい」
「よくやったでゲス。エーリッヒ君これを見ながら烈君達に指示を送るでゲス」
「わかりました」
 エーリッヒは彦佐から装置を受け取ると、無線機の電源をオンにする。
「レツ、お待たせしました。まず状況を説明します。そのミラーラビリンスはコースが途中で変わるんです。創立以来クリア者はゼロ、超難関で自力攻略は不可能です。 なので今からブレットと合流して出口まで行けるよう僕がサポートします。アドバイス通りに進んでください」
『は?クリア者、ゼロ?…………ああ、それで。とりあえず了解』
 烈はエーリッヒの説明に一瞬呆然となったようだったが、藤吉との付き合いもそろそろ長いので比較的早い回復を見せた。
「まずはその道の突き当たりを右に行ってください」
『わかった』
 烈が鏡の上をカツカツと歩く音が響く。その間にエーリッヒはブレットの位置を再度確認しようと青い点の方に目をやったところで、今度はエッジから名を呼ばれた。
「エーリッヒ!リーダーがやっと無線機の電源を入れたんで今説明してんだけどさ」
「ブレットも結構粘りましたね。それでどうしました?」
「なんかえらく怒ってるぜ。トウキチ・ミクニはなんでそんな無意味なものを作るんだ!って」
 あまり藤吉と付き合いのないブレットはそう寛容に事実を受け止めることができなかったらしい。
「反応があなたと同じですね」
「ほっとけ」
「とりあえず文句を聞く暇はありませんので一日中そこにいたくなければ黙って指示に従うよう伝えてください」
「ラジャ!」
「それから左に行くよう指示……」
 ブレットと烈の位置と照らし合わせ、エッジに伝えようとしたところで今度は慌しい烈の声に遮られた。
『エーリッヒ君!』
「どうしました?レツ!」
『道がないよ!』
「え、そんなはずは」
 再度画面に目をやる。記憶と照らし合わせるエーリッヒをJが素早くサーポートする。
「エーリッヒ君、これ烈君に知らせた時と図が違う。コースが変わったんじゃないかな?」
「あ、とそうみたいですね。ではレツ、少し戻って今度は左に……」
「エーリッヒ!」
「何ですか!」
 何度も名を呼ばれ、少々苛立ってきたのかエーリッヒの返事も自然と荒っぽくなる。
「ブレットも道がないっつってる」
「ブレットのはさっき指示を出したところですよ、そんなはず、は……」
 もう何度目かエーリッヒはまたも画面に目を落とし、そして目を疑った。その横でJもまた驚きに目を見開いていた。
「大変だ。またコースが変わって、どころかどんどん変わってく!」
「トウキチ・ミクニ!どういうことです!こんなにすごい速度で変わるなんて聞いてませんよ!」
 事態解決と扇子を振っていた藤吉はJの悲鳴に慌てて画面に目をやり、やはり驚きの声を上げた。
「そ、そんなはずないでゲス!コースが変わるのは五分単位でゲス。こんな数十秒でコロコロ変わったりするはずないでゲス!!彦佐!」
 どうやらこれは藤吉にとっても異常な事態だったようで、すぐさま隣で戸惑う彦佐に指示を送る。
「今すぐ管制室に変更パターンの速度を元に戻すよう連絡するでゲス!」
「はい、かしこまりましてございます!」
「これでは指示が追いつきませんね。トウキチ・ミクニ、一つ聞きますが人がいる付近のブロックまで動くことはありますか?」
「それはないでゲス。突然走る子どももいるでゲスから、重みを感じているブロックと隣り合う六方のブロック部分は安全面からコース変更のないよう設定されているでゲス」
「ならば、彦佐さん。この機械、後もう二つありますか?」
「はい。そこのカバンに入っておりますです、はい」
 携帯を耳に当てたまま彦佐がすぐにエーリッヒの要求に応じる。エーリッヒは素早くカバンから求めていたものを取り出し、Jとエッジを傍に呼ぶ。
「Jはレツに。エッジはブレットに。これを届けて下さい」
「わかった。リアルタイムで画面を見ながら二人を合流させるんだね?」
「更に二人いればコースを変動しない部分も増やせるって寸法か、OK!」
「非常口は人のマークが書いてあるところでゲス」
 すぐさま二人はそれぞれに近い非常口に向かって駆けて行く。
「た、たたた大変でございますです、はい!管制室と連絡がとれないであります、はい!!」
 一アトラクションの管制室は常に十人体制で管理している。誰もこの緊急回線を受けないということは通常ありえない。
 そもそもこれが機械の故障だとしたら緊急放送が入るはずだ。それがないということはつまり、完璧に、異常事態だ。
「な、何ですとおおおおっっ!」
 藤吉の悲鳴が響き渡った。



 そのとき要の管制室では。
「フフフフフフフ」
 横一列にズラリと並ぶ椅子の中央を陣取り、幾つもの画面を前に不敵に微笑む黒い影。
「おりゃああああ、会わせてたまるかあああっっ!!」
 その隣ではもう一回り小さい影が出鱈目に目の前のボタンを押しまくりながら走り回ってる。
「ミハエル、電気くらいつけて下さい」
 パチ
 突然、明かりはディスプレイ画面からのほのかな光のみという薄暗かった室内がパッと明るく照らされる。
「あー何すんのさヘスラー、電気つけない方が雰囲気が出るのに」
 足を組み、グラスを傾け(中身はジュースだ、多分)雰囲気に浸っていたミハエルは齎された明かりに不服そうに口を尖らせた。
「何のですか」
「え?悪の総帥?今日の僕はデートを邪魔する悪い奴だからね」
「悪の総帥ごっこもいいですが、この方達は一体どうするつもりなんです」
 明るくなった周囲を見てみるとあちこちに同じ制服を着た男達が床に無造作に転がされていた。
「別にどうもしてないじゃない。催眠ガスで眠らせただけでしょ?あ、豪君、あんまり叩きすぎると壊れちゃうよ」
「うげっ!」
 土屋研究所での蘇る悪夢。そう言えば自分は昔めちゃくちゃに機械をいじって開発中のサイクロンマグナムのプログラムデータを飛ばしそうになったのだった前科があるんだった。
 こんな高価そうな機械を壊して弁償などという事態になるのは困る。
 豪は先よりボタンを弄るペースと強さを若干弱めた。
「そうそう。これは借り物なんだから壊しちゃ駄目だよ。後でちゃんと返さなきゃ駄目なんだから」
「ってミハエル、そうじゃないでしょう?彼らに悪いと思わないんですか?」
「悪い?ああ、そっかあ!確かにこのままじゃ寒そうだよね。アドルフ、隣の仮眠室から毛布持ってきて彼らにかけてあげてよ」
「「ミハエル」」
「彼らはゆっくり休める。その間、代わりに僕達が管理してあげる。これで万事解決でしょう?」
 結局ミハエルを止めることなど自分達には不可能なことだったのだ。
「アドルフ、手伝うよ」
「助かる」
 苦労を分かち合える友がいるのはよいことだ。
 一人でなくてよかったとお互い肩を叩くようにして励ましあいながら、二人は部屋を出て行った。
 今はただ、哀れな管理者達に暖かい毛布を届けるために。




to be continue…

いきなり逸れるブレットと烈。藤吉の作るアトラクションは超テクニカルです。油断するとアストロノーツでもやられちゃうから注意だぜ。 と言うかこの話、シュミットの姿が時折消えている気がする。真面目な話のときになると台詞が、なく、な、る…許してくれ。しかも、続きます。



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