さて、どうしようか





++腹が減っては何とやら++





 着いたところはお空の上。横手にあるのはせり立つ崖。咄嗟に掴んだのはそこから生えた木の幹。
 取り敢えず地面にトマトは免れた。数々の修羅場を潜り抜けてきた自分の反射神経に乾杯、だ。
「……丁度良い位置に、不自然にも、偶然木が生えてました。なんてどうやらまだ運の女神様には見放されてないみたいだね」
 まぁ、並みの人間なら今の状態も十分ピンチなのだが。
「そして僕はまたも幸運なことに疾風の紋章を宿してるわけで」
 この紋章との付き合いももう随分になる。某友人から譲り受けたもので、かつての宿主の魔力の影響か、それとも特別に加護を与えたのか、精度はそこらの紋章よりも高かった。
 流石に崖の上まで押し上げるのは無理でも、落ちる速度を比較的緩やかにするくらいは可能だ。
現に過去、これよりずっと高い崖から落ちたときもそれで助かってるので効果は保障されている。
「とにかく発動」
 左手を上げる。風に呼びかける。
 待つこと数秒。
 ………………………あれ?
 普通ならすぐに風が集まってくるはずなのだが、来ない。
 手を見る。確かに風を象徴する模様がある。まぁ、外した覚えはないから当然だ。
 手を振る。動く。別に使いものにならなくなったわけでもない。いつもの自分の手だ。
 もう一回集中。
 今度は変化を見極めるため、目を開けたまま。
 違いはすぐにわかった。
 光って、ない??
 魔法を使えば、発動を示して紋章は光を放つ。その強弱や色はものに寄るが、薄っすらとも光らない、ということは発動自体していないのだろう。
 魔力を消耗しているわけではない。かと言って封印のような押さえつけられているという圧迫感もない。
 敢えて言うなら『静かなる湖』の効力範囲にいるときの感じに似ている。
 どこぞの特殊な結界内にでも飛び込んでしまったのだろうか?ビッキーならやりかねない。
「しかし、それだと困るんだよねぇ」
 要するに紋章が使えないということは、ここから降りる手立てがないということだ。
 大ピンチなんですけど。実はちょっと離れた所に人一人くらい寝そべれそうな、結構幅のあるでっぱりがある。しかも道のように奥が続いていそうに見える。多分ジャンプをすれば、届くとは思う。
 が、問題が二つ。まず高さ。そのでっぱりは木と同じほどの高さにある。今自分は幹にぶら下っている体勢なので、このままでは乗り移れない。
 まぁそれならば幹の上に登ればいいだけの話だ。しかしそこで二つ目の問題が立ち塞がる。

 みしみし鳴ってる。

 はっきり言って抜けかけてます。僕はそう重い方じゃないとは思うけど、こんな不安定に生えてる木だし、正直いつ耐え切れなくなってもおかしくない。
 そんな状態で勢いつけて上に上ったり、ジャンプしようと体重かけたりしたら……今度こそトマトだ。確実に。
 でも永遠にぶら下ってもいられない。そろそろ腕も痛いし、どっちにしてもいつかは抜ける。
 だったら早めに飛んだ方がいいんだろうなぁ。
 覚悟を決めて腕に力を込める。

 しゅるしゅるしゅる

 ????
 まさに飛ぼうとしたその瞬間、ピンク色の細長い触手のような物体がそのでっぱり辺りから伸びてきた。
 何?これ??でも、チャンスだ。
 それに触れると、自分が掴むまでもなく、触手の方からシュラに巻きついてきた。
 うーん、あんまり歓迎できない図だけどそんなこと言ってる場合じゃないよねぇ。
 背に腹は変えられぬ、とばかりにそのまま運ばれるに身を任せた。

 しゅるしゅるしゅる

 巻き取られてみれば、そこにいたのは予想外にもちょっと垂れ目の愛嬌のある顔をした、象?だった。ピンクの触手は長い舌だったようだ。
 一瞬食べられるのかと思ったが、その象もどきはシュラを目の前に引き寄せると、そのままゆっくりと地面に下ろしてくれた。
「もしかして、助けてくれた?」
 すると象もどきは再び木の方に舌を伸ばした。戻ってきた舌には赤い実が。
「ああ、別にそんなつもりではなく食事しようとして間違えたただけ……」
 感動して損した。でも助かったのは事実である。
「ま、いいか。ありがと」
 優しく背(と言っても届かないので脇腹になるのかもしれないが)を撫でるシュラの行為に感謝の気持ちが通じたのか、象もどきはとった赤い実の内の幾つかをシュラの前に転がした。
「食べろってこと?」

 パグゥ

 変な鳴き声、じゃなくて多分「どうぞ、どうぞ」とかそういう意味だよね。
 一見林檎っぽいけど、大きさはちょっと小さいし、香りもそれよりずっと強い。でも別に変な色でも臭いでもないし、害はなさそうに見える。
 象もどきも食べてるし、多分大丈夫だろう。幸い毒でもある程度は耐性がある。それに確かにお腹空いたし。
 ああ、後少しで昼食タイムにしようと思ってたのになぁ。アキの作ったご飯……
 シャリシャリ
 あ、でもこれおいしい。
 人間空腹が満たされれば、気が落ち着いて自然と次の行動に考えを巡らせるものだ。
 まずはここがどこだか把握しなければならない。
 と言っても今のところ手がかりはこの象もどきだけである。
「ねぇ、集落…って言ってもわかんないよね……この辺り一体を、見渡せるような、高い所、ある?」
 言葉だけでなく、身振りを交えて意思疎通を図る。

 パグゥゥゥ

 一声鳴いて、頷いた。
 どうやら伝わったらしい。意外と賢い生き物のようだ。
 象もどきは舌で自らの背を指し示す。
「あ、乗っけてってくれるの?」
 再び一声。そのまま舌でシュラを持ち上げる。
 しかも親切だ。
 やっぱり動物?って良いなぁ。
 かつて諦めた動物の相棒を持つという野望が久々に頭を擡げた。
「そうだ、いつまでも象もどきじゃあ可哀想だし、名前で呼んだ方が良いよね」
 とは言え、シュラはこの生き物の正式名称など知らないので、勝手に名前をつけることにした。
 うーん、名前、名前。こういうのあんまり得意じゃないんだよね……
 生き物に名前をつけるのと城に名前をつけるのとでは勝手が違う気がする。なんとなく。
 ここはフッチに倣って見た目通りでいこうか……そうなるとグレイ。でも色ばっかりじゃあ捻りがないし……
 シュラは改めてその象もどきを見下ろした。
「そうだ、ハナにしよう」
 それは明らかに鼻から来ていた。耳と鼻に視線を止め、シュラの中で何を基準にしたのかはわからないが耳は落とされたらしい。
 命名・ハナ。それは鼻が大きくてでっぱっているから。目立ってるから。
 シュラには生物に対するネーミングセンスは皆無だった。

 パグゥゥゥ……

 その呼び名に対し彼ができたのは、少々切なげに鳴くことだけだった。
「よろしくね、ハナ」
 後にサヴァイヴの面々に出会い、新たにパグゥと名付けられるまで彼は暫くこの名前で呼ばれ続けることになる。
 そして頼もしい相棒を得た上機嫌なシュラはそんなことを気にすることもなく、楽しげにハナの背に揺られるのだった。




to be continue…

坊ちゃん慌てません。まぁ、まだ異世界とは気付いてませんが。程なく知ることになります。と言うかパグゥ可哀想ですね(悲)



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