失礼な





++出た。++





「僕達以外に人間がいるぅぅ〜??」
 無口なカオルが口を開くこと自体珍しいのに、その内容までが普通じゃなかったから僕、ハワードは思いっきり素っ頓狂な声を上げてしまった。
「でもカオル、僕達は山に登ったり、随分歩き回ったりしてみたよね?けど今まで人の痕跡を見つけたことは一度もない。何故いきなりそう思ったんだい?」
 一応最年長のベルが僕の、僕の言いたかったことを代弁、あくまで代弁して尋ねた。
「これを見ろ」
 何だ?これ?
「金属のナイフだ!かなり薄いし、先も尖ってる…」
「間違いない。これはきちんと熱加工された、つまり人の手が加えられたやっちゃ!」
「カオル、これどこで拾ったの?!」
 カオルがポケットから差し出したそれにシンゴとチャコが真っ先に詰め寄った。こいつらは機械マニアだからな。金属というだけで過剰に反応する。
「大トカゲに襲われたときだ。俺が投げた槍はあのままでは急所からわずかにずれていた。しかし何者かがそれを槍に当てて軌道をずらしたんだ」
「そんなことが可能なのか?」
 メノリが訝しげな顔で首を捻った。
「わからない。が道具を見る限りでも人に近い何かはいるんじゃないかと思った」
「確かに気になるわね。会って話ができたらいいんだけど」
「しかしルナ。話が通じる相手とは限らないんじゃないか?」
「でもその人は助けてくれたんでしょう?だったら良い人なんじゃないかしら?」
「助けるつもりではなかったかもしれない」
「そうそうメノリの言うとおり!それにこんなとこに住んでる奴なんて絶対まともな人間じゃないって!もしかしたら」
「もしかしたら?」
 ハワードの溜めに皆が固唾を飲む。
「お化けかもしれないぞ」
「馬鹿か」
 メノリが即効で冷たく切り捨てた。
 あ、お前ら全然信じてないな!ちぇっ、ノリの悪い奴らだな!せっかく脅かしてやろうと思ったのに!
 しかしその中で一人だけ別の反応を示した者がいた。
「お、お化け……?」
 シャアラだ。身体を強張らせて真剣に怯えた表情をしている。
 そうそうこの反応だよ!
 ハワードは調子に乗って続けた。
「気をつけろよ、シャアラ〜。お化けってやつはうまいこと言って油断させて生きてる奴をあの世へ連れてっちまうんだぞー」
「ええ?!そ、そうなの?」
 シャアラのやつ怖がってる怖がってる。本当にからかい甲斐があるなぁ、ははっ!
「もうっ、ハワード!変なこと言ってシャアラを怖がらせないの!」
「全くだ。くだらない」
 それに比べてルナとメノリは、本当に可愛くない。なんでこいつらはこんなに生意気なんだ?
「とにかく今日はもうすぐ日が暮れて危険だからこのまま食事をして寝ましょう?探索は明日の朝食の後。それでいいわね?」
 ルナの提案にそれぞれが頷いた。僕以外。
「ハワード、わかったのか!」
 全くメノリはうるさい。
「ああ、わかったよ!」
 そこで話は一応お開きになった。


********


 翌日、朝食の支度が整ってもまだ起きてくる様子のないハワードにさすがに不審に思ったベルが彼を起こすべく寝台へと近寄った。
「ハワード?まだ寝てるのかい?そろそろ起きないとメノリが朝食抜きにするって怒ってるけど……」
 揺すってみるが反応がない。それどころか何か硬いような……まさか!
 次の瞬間ベルが勢いよく薄い布団を剥ぎ取った。
「やっぱり!」
 そこにあったのは食料の果物を詰めたリュックサック(しかもベルの)。
「皆大変だ!ハワードがいない!」
「なにいいいいっっ!!」
 爽やかに晴れた大空に皆の大声が響き渡った。



 その頃、一足早く捜索に出たハワードは一人、カオルが見当をつけた方角を当てもなく歩いていた。
「へへっ、あいつら今頃悔しがってるだろうなぁ!」
 わかったわけないだろ、バーカ!どうして僕がそんな命令に従わなきゃならないんだ?
「手柄は僕一人のものさ!」
 そのためにもあいつらより早く、あの刃物を投げた犯人を見つけないとな。
 そうでないとこの僕が態々夜明けと共に起きた意味がない!
 ハワードは改めて気合を入れなおすと意気揚々と背中のリュックサックを背負いなおした。
 と、行き止まりか?
 目の前は茂みで覆われている。掻き分けて進めないことはないが、きっと小枝とか当たって痛いに違いない。
 別の方へ行くか。
 簡単に先へ行くことを断念したハワードはあっさり来た道を引き返すべく踵を返した。
 そのとき、背後から微かな音が聞こえてきた。
 がさごそ
 な、何の音だ?トビハネか?
 がさごそがさ
 トビハネだよな?トビハネだよな?
 がさごさがさがさ
 トビハネにしては動きが遅いような気がするけど、絶対トビハネだよな?大トカゲとか、間違ってもアレなんかじゃ…
 がさっ
 茂みから出た手がハワードの肩をぐわしっと掴んだ。
「ギャー―――!出たあああっっ!!」
 ハワードは叫んだ。力の限り。
「ちょ、ちょっと…君!」
 現れたものが何か言っている。何だか慌てているような感じもする。けど僕には何も聞こえなーい!だってまともに耳をかしたりしたら…

 お化けって奴はうまいこと言って油断させて生きてる奴をあの世に連れてっちまうんだぞー

 自分が言った言葉だ。
 連れてかれるイコール死ぬ。殺される。うわーうわーうわー
 ハワードは混乱した。そして全速力で考えうる限りの方法で神頼みやらあの人頼みやらを決行した。
「なんまんだぶ〜、なんまんだぶ〜!!迷わず成仏してくださいいい!エロエムエッサイムゥゥゥ!!悪霊退散んんん!助けて、パパぁ――――っっ」
「パパ??」
 破れかぶれで叫んだ意味不明な台詞達。しかし意外にも幽霊らしきものがその内の一つに反応を示した。
「もしかして、昨日大トカゲに襲われて叫んだパパ君?」
「お前、なんでそれを知って……って、誰がパパ君だ!」
 あまりにも予想外で失礼な侮辱に恐怖を忘れて振り返って突っ込みを入れる。肩に置かれた手が離れる。目があった。
 幽霊は肌が白くて、黒髪で、美人が多いとか言う話を聞いたような気がする。
 危険信号。
「あははー、ごめんごめん。僕君の名前知らないからさ。でも当たりでしょ?声とイントネーションばっちり同じだし」
 だが口調は意外とフランクな感じだ。幽霊独特の陰鬱な印象は受けない。
 何より、足がある。
「お、お前……幽霊じゃないのか?」
 悩んだ末に正直に疑問を声に出してみた。普通に考えても「はい、幽霊です」とか答える幽霊はあまりいないと思うのだが、それに思い至らないところがハワードのハワードたる所以だった。
「は?幽霊??こんなはっきり触って見せたのに、幽霊扱い?」
 だから彼は非常に単純に納得した。
 本人がこう言ってるんだし、やっぱ幽霊じゃないんだよな、と。
「ふ、ふんっ!なんだ、やっぱりな。そんなのいるわけないんだよ。僕はちゃーんと初めからわかってたさ!」
「誰も訊いてないのにバレバレの嘘を大声で宣言するなんて面白い子だね」
「全く僕も焼きが回ったもんだ。こんな生っちろい女顔の弱そうな奴を一瞬でも怖いと思うなんて。しかもお前、僕より小さいじゃないか!」
 シュッ
 ん?何の音だ?
「はははははははは、本当に面白いことを言うねぇ。君は」
 肩が痛い肩が痛い肩が痛い。
 あれ、確か僕はさっき肩に置かれた手を振り払ったはずなのに、この手はいつの間にまた肩に乗ったんだ?
 ハワードは気付けなかった。先ほどの音こそが目の前の彼が肩を掴みにいった際に鳴った空気を裂く音だということに。
「だけど冗談もあんまり度が過ぎると……」
 笑っているのに目が笑ってない。彼の背後に何か黒い靄のようなものが見える。
 ごしごしっ
 目を擦っても消えない。
「喰べちゃうよ?」
 靄がはっきりと自分の方に動いた。
 知らない間に自然に置かれていた肩の手。不可思議な靄。
 『油断させて…あの世へ…あの世へ…あの世へ』ついさっき打ち消した言葉がエコーで蘇る。
 やっぱり、やっぱりこいつは幽霊だったんだああああ!
「ギャ――――――――――!!!!」
 二度目の叫びは一度目の叫びを元に、既に近くまで来ていた仲間達全員のところまではっきりと届いた。
「大丈夫?!ハワード!」
「一体どうしたんだ!」
「何があった!」
 駆けつけた仲間達の視線は自然とその場に立つ一人の少年へと向かった。
「「「「「「人間だ!!!」」」」」」
 彼らが初めてきちんと顔を合わせてまずしたことは。
「初めまして。早速で悪いけど彼はどうしたらいい?」
 自己紹介でもなく、事情を訊くことでもなく、不用意な言葉を口走り勝手に?気絶した哀れなハワードを『みんなの家』まで運ぶことだった。





to be continue…

ハワード視点にしてみました。サヴァイヴを知る人ならば一度はやってみたくなるはず!ヘタレハワード、全快。



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