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++66.捕虜++ 「これから先のこと踏まえて、くれぐれもよくお考えになって下さい」 本国からの送られてきた手紙を前にして、コルトンはたった一言そう言った。 今思えば、素っ気ないその言葉は彼なりの精一杯の思いやりだったのかもしれない。 ******** 「トロイ、お風呂に行こう!」 彼はそう言って弾丸のように扉をぶち破った。 ナギはいつも無駄に元気だ。夜早く眠らせているせいか、朝だって早い。 下手をすれば仕事のあるトロイよりも早く活動を開始し、ほぼ一日中部屋にいないと言ってもいい。 そこには規則性も統一性もなく、散歩に出かけたり、食事の準備を手伝ったり(あくまで料理人の監督の下の手伝いだが)、図書室に篭ったり日によってすることは様々だが、その活動の幅はとにかく広い。 まだ食事の時間ではないからと油断していると思わぬ突撃を受け書類の文字が歪むという悲劇が生まれたりするので、常に注意が必要だ。 今も手紙を前にしばし考え込んでいたトロイは、後少しで託されたばかりの本国からの手紙を破いてしまうところだった。 取り敢えず無事原型を留めた手紙を素早く引き出しの奥へとしまい、鍵をかける。 いつもなら重要な書類に目を通すときは扉自体に鍵をかけるのだが、今日は直前までコルトンと話をしていたため確認していなかった。 しかしこのような場合、コルトンならば何も言わずとも邪魔が入らないよう考慮して鍵をかけて行くはずなのだが。珍しいことだ。 内心疑問に思いながらもキーを懐に仕舞い終えたトロイはそこでやっと一息つき、声の方に意識を移した。 「風呂だと?風呂なら昨晩入ったはずだが」 現在昼過ぎ、まだまだ日が暮れるには時間のあるこの時に何故風呂? 意図がわからず首を傾げるトロイ。しかしナギにとってポイントはそこではなかったらしい。 「風呂?あれがお風呂だって?!信じられない!トロイの不潔!」 「は?」 ただ正論を言っただけなのだが、今度は何故か責められた。 「トロイの部屋にあるのなんてシャワー室じゃないか!お風呂っていうのはね、湯船に浸かってババンババンってすることを言うんだよ!あんなのは水遊びだ、断じてお風呂じゃない!だから今から本物の大きいお風呂に入りに行こう!」 …………………………ババンババン? いや、違う。注目すべきはそこじゃない。 ナギの現在のいでたち。片手にスコップ、片手に如雨露、首からタオル。 どうやら今日は花壇の手入れに行っていたようだ。 手袋は土にまみれ、頬にも所々土がついており、額には汗が光っている。 よく考えれば、いやよくでなくても姿を見れば簡単なことだった。 「要するに自分が今風呂に入りたいだけだな」 「そう」 「誰かからリノ王自慢の広い風呂の話を聞いたのか?」 「そう」 「俺が経費の無駄とその利用を止めているのは知っているな」 「うん」 「…………風呂を沸かすよう指示を飛ばしておくから早くその両手のものを片付けて来い……」 「おっけー」 我ながら甘い、ような気がする。 いや、だが元々部下達からも数少ない娯楽を求める嘆願は届いていたわけで、そろそろ解放しようと思っていたのだ。断じてナギの要求に屈したわけでは。 言い訳をしている時点で既に負けているということにトロイはまだ気付いていない。 それから数十分後、結局トロイはナギと共に脱衣所にいた。 何故だ、と自らに問いかけてもここまで来たからには入らないわけにも行かない。 溜息をつきながらも自らの服に手をかけながら、目の前を通過したナギを視界に捉え、トロイは一瞬目を疑った。 「待て」 「何?」 元々長袖シャツにパンツというラフな格好をしていたナギは隊服をきっちり着込んでいる自分と違って服を脱ぐのに大した時間はかからない。 早々と腰にタオルを巻き付け風呂場へ向かおうとしているナギの手には。 「まさか手袋を付けたまま風呂に入るつもりなのか?」 「え?あ、忘れてた」 いや普通忘れないだろう。 だが手に視線を落としあれ?と首を傾げるその仕草は本当に今初めて気付いた、といった風だった。大体ここで演技をする意味はない。 「もしや、お前は極端に光に弱い体質だったりするのか?」 「は?」 そこまで厳重に日を遮ろうとするからにはきっと大変な事情があるのではないだろうか? ことは自分が考えているより遥かに深刻だったのかもしれないと真剣な表情で尋ねたトロイを見て、ナギは目を点にした。 「……トロイ、まさかとは思うけどいつぞやのあれ、本気で信じてたの?」 恐る恐るといった感じで尋ねてくるその表情には隠しきれない笑みが刻まれていた。 「…………冗談、だったのか?」 「っ、あはははははっっ!当たり前じゃないか!真剣な顔して何を言い出すかと思えば…普通信じないって!あげく体質とか…毎日外を出歩いてる人間にする心配じゃないよ!」 延々と笑い続けるナギの姿にトロイは憮然とした表情で黙り込んだ。 「本当冗談が通じないんだから」 「冗談なら外せばいいだろう」 「それは……」 するりと続けようとしたナギの言葉はそこで途切れた。 先まで爆笑していたナギから一切の表情が消える。 「ナギ?」 不自然な間。 「できない。なんとなく…いや駄目だ。絶対。ないと駄目なんだ。これが、ないと。あいつが言った」 訳のわからない言葉の羅列。 「ナギ!」 「あ、何?」 トロイの強い誰何の声にナギの目に光が戻る。 呆けたような表情は、現状把握ができていない、まるで夢から目覚めた直後の人間のようだった。 あのときと同じ症状。 良くない兆候を感じ取ったトロイはこのままその話題を続けるべきか逡巡する。 しかしトロイが迷っている間にナギは完璧にこちら側に戻ってきたらしく、勝手に会話を再開していた。 「そっかそっか。手袋だ。トロイ、手袋は別に冗談でつけてるわけじゃないよ」 「では何故だ」 また過剰な反応をされることを恐れたためその声音は硬いものを含んでいた。 「何故かって言われるとわかんないんだけど、多分記憶を失う前からずっと付けてたんじゃないかな。何せ外すという行為自体に思い至らないくらいだからさ」 そんなトロイの不安は杞憂だったようで「でも本当何で着けてるんだろうなー?」とブツブツ言いながらも手袋を外しているナギには変わったところは見られない。 しかし自身のことを語っているというには若干客観的すぎる気もする。これでは他人を分析しているようではないか。 記憶を失う前と後で精神分離を起こしているのではあるまいな? トロイには、やはりナギの精神はどこかちぐはぐに思えた。 再び黙り込んだトロイにナギがポツリと語りかける。 「トロイ」 「何だ」 果たして今度は何を言われるのか、トロイは身構えた。 「もう入っていい?お風呂」 「……………」 ここが風呂でよかった。 広い風呂はきっとこの蓄積された疲労を落としてくれるだろう。 さすがに寒くなってきたんだけど、と訴えるナギをトロイはさっさと風呂場へ追いやった。 ガシガシガシガシ 広い湯殿に響き渡る力強い音。 別にナギがデッキブラシでトロイを磨く音ではない。単にナギが髪にまでこびり付いた泥と格闘する音だ。 それは二人でいるときにしては大変珍しい無言の空間であった。 「ねー……」 やがてナギがやっとその長い沈黙を破る。ただし姿勢はそのままで手を休める気配はなかった。 「何だ?」 一足先に湯船に浸かり「頭を洗うのにどれだけ力を入れてるんだこいつは」と何気なくナギを眺めていたトロイはすぐに返事を返した。 「僕の記憶って一体どうなってるんだと思う?」 「どうなっているとは?」 「全然戻る気配がないんだけど。大丈夫なのかなと思って」 一向に戻る気配のない記憶。 先ほど手袋について考え、ナギはようやく自分の不自然な状態に疑問を抱いたようだった。 しかし既に目覚めてから随分時が経ったているにも拘らず、ナギが記憶への関心を口にしたのはこれが初めてだった。 一応人並みの感性も持っていたらしいが、気にするのが遅すぎると思う。 暢気なものだとトロイは湯船の縁へと寄りかかる。 「大丈夫も何も、自然に戻るのを待つ以外どうしようもないだろう」 「本当にそう?」 「何?」 「トロイが僕に黙ってることを話してくれれば思い出せるかもしれないのにってこと」 再び二人の間に沈黙が落ちる。 洗面器に貯めてあった湯を頭から思いっきり被り、泡を洗い流したナギは眉を顰めているトロイの横にゆっくりと身を沈めた。 「俺が何を隠していると?」 「例えば、僕の身元とか」 身構えているときは惚けたことしか言わない癖に、気を抜いたときに限って確信を突いてくる。 パシャン 天井から落ちた露音を引き金に、トロイが重い口を開いた。 「はっきりしたことは俺にもわからん。最初に目覚めた際言ったように、おそらくお前に関わりがあるであろう町は少し前に失われて他に生き残りが存在しないからな」 隣でナギがそんなことはわかっているというように不満げな顔をした。 しかしトロイはその先の言葉を許さなかった。 「と言えば今度はお前はその町の名前を教えてくれとせがむんだろう。しかしもし俺が町の名前を出せばお前はそこから更なる情報を得ようとする。だが調べようとすれば間違いなく町が失われる原因となった事故の話題に触れることになる。お前の記憶喪失はおそらくその事故が関係している。それがお前の精神にどういう影響を及ぼすかを考えれば話すべきではない、と船医が判断した。少なくとも今のお前の精神状態は自分が自覚しているよりずっと不安定だ。だから、今は、ただ只管に平穏な生活を心がけ精神安定に尽すことだ」 そこまで一息で畳み掛けられたナギは一瞬はその怒涛の勢いに飲まれ黙ったが、それでもやはり自らの情報を諦めきれないのか、珍しくトロイの主張に対し食い下がってきた。 「じゃあその時僕が何か持っていたとか、せめてそのくらいなら教えてもらってもいいんじゃないの?」 何か持っていたとか、とは随分断定的で変な尋ねた方だと思ったが、トロイはその時はその意味を深く考えたりしなかった。 「と言われてもあの時のお前は何も持っていなかったからな…敢えて言うならその手袋と着ていた紅いローブくらいだが」 「紅いローブ?それ初耳なんだけど?どこにあるの?」 「それが、なくなった」 「はあ?」 今度のナギの非難は正当なものである。 「ちゃんと保管しといてくれなかったの?」 「そういうわけでもないんだが」 医務室に運び込み、着替えさせた後洗って枕元にでも置いておくよう言いつけたのだが、その後ローブがベッドに戻ることはなかった。 「僕自身の唯一の手掛かり」 「すまん」 「まあ仕方ないけどさ」 あのときは謎の兵器による被害やオベル侵攻などバタバタしていた。 混乱の極みの中、管理が杜撰になってしまったことを責めることはできなかった。 結局収穫はなし。 ナギはそれ以上聞いても無駄だと悟ったのか、それとも記憶への関心を失ったのかそれ以降は関係のない風呂への賞賛を延々と披露してくれた。 「トロイ司令官、少しいいかしら?」 浴場からの帰り道。 その声の持ち主がナギでなく自分を呼び止める意図がわからず、トロイは怪訝に思いながら振り返った。 その先にいたのはやはり捕虜であるオベルの第一皇女、フレア。 「こんにちは、フレア王女」 「こんにちは、ナギ」 しかしトロイが口を開くより先に隣のナギが彼女の意識を捉え、会話を引き取ってしまった。 「また散歩?」 「そうよまた散歩。せっかくの自由時間も王宮から出られないんじゃあ暇すぎてすることがないのよ。ナギは早速大浴場へ行っていたのね。気持ちよかった?」 「うん。すごく。というわけで僕は今からその素晴らしさを他の皆にも宣伝しに行く使命があるからこれで失礼するね」 「あら頑張ってね」 「うん頑張る。じゃね、トロイ」 小さな幸せお裾分け〜、と分けのわからない鼻歌を歌いながら素早く機転を利かせたナギはさっさと去っていってしまった。 話には聞いていたがいつの間にこれほど交流を深めていたのか。まるで示し合わしたかのような息ぴったりのテンポの速さ。 止める間もなく実に鮮やかにトロイは一人その場に取り残された。 皇女の存在を無視するわけにもいかず、トロイは仕方なくフレアの方に向き直る。 「私はこれでも忙しい。話は手短にして頂けるか」 「ええ、私もそのつもりよ。貴方が素直に答えてくれるならすぐに終わるわ」 そう言ったフレアは挑戦的な瞳をしていた。 それは自分達に降伏した際にも見せた、絶対に心までは服従しないという強い意思の込められた眼と同等の鋭さ。 ひどく、嫌な予感がした。 「あの子は何者なの?」 本日二度目の、そして彼女自身にとっても二度目の問。咄嗟にトロイの頭に先ほど見たナギの姿が頭を過ぎる。 外見に似合わない節の太い、幾つものタコを持つ意外に男らしいごつごつした手。 普段は布に覆われ見ることのない体中に刻まれた矢傷、焼跡、太刀傷などの数々の傷。新しいものから既に古傷になっているものまでそれは無数に刻まれていた。 彼が何者なのか。それはこちらこそが知りたい。 しかしフレアにそのことを話す義理も必要もない。 トロイは平然とした表情で用意された言葉をただ口にした。 「以前にもお話したはず、ただの孤児だ」 「ただの孤児を戦闘前の危険な軍艦に乗せるのかしら」 ナギが話したのだろうか?そう言えば彼本人には口止めをしていなかったような気がする。 「緊急ならばそういうこともあるだろう。話がそれだけなら失礼する」 さっさとこの面倒な会見を終わらせたくて早々に背を向けたトロイに構わずフレアは話を続けた。 「ならどうしていつまでも彼を監視しているの」 「何」 フレアから飛び出した予想外の隠し玉に、トロイは敬語も忘れてピタリと足を止めた。 何故、彼女が知っている。 「ナギと初めて会ったときから時々違和感を感じていたの。息を飲む声、視線が時折一つ多い。今もナギの後を追いかけて行った。知らないなんて言わせないわ」 あれは貴方の差し金だものね。 フレアが更に言い募る。 「理由は記憶が戻って下手なことを話されると困るから。もしくは記憶喪失が偽りではないか測るため?」 「フレア王女、どこでそんな根も葉もない話を?」 「ナギがご丁寧に故郷はなくなったと話してくれたの。奪われたのではなく、なくなったと。最近この辺りで言葉通りなくなった町は一つだけよ」 ナギに半端に情報を与えたのが敗因だな、とトロイはどこか冷静に分析した。 「あの子はイルヤの子なのでしょう?貴方達が滅ぼした、ね」 もう否定はしなかった。フレアの言葉には断定的な響きが含まれており、例えここで何を言っても彼女にそれを信じさせることは不可能だろうと思ったからだ。 しかし何よりフレアの痛烈な皮肉は確かに真実を突いていて、それは偽ることのできないトロイの罪でもあったからだ。 「まだ、そうと決まったわけではない」 それでも口から出たのははっきりとした肯定ではなかった。 それは常々抱いていたナギの正体への不信と、それに縋る一縷の望みでもあった。 フレアも思い当たる節があったのか、そのこと自体は否定しなかった。 「そうね。そうかもしれないわ。あの子が只者じゃないことくらい私にだってわかるもの。もしかしたら単にそこに居合わせただけでイルヤとは何の関係もないかもしれない。 でもね私が言いたいのはそういうことじゃないの」 「先のはただの言い訳だと言いたいのか。自らの罪の言い逃れなどするなと?」 確かに今のは結果論に過ぎない。偶々彼が一介の町人としては相応しくない要素を持っていたからそういう可能性が出てきたというだけの話で、自分達の国が多くのものを奪った事実がなくなるわけではない。 「そうじゃないわ。私が今問題にしたいのはクールークという国家のことではなく、貴方のことよ」 しかしトロイの想像とは少し違い、フレアが口にしたのはクールークの行為への批判ではなかった。 「貴方が監視のためだけにあの子を傍に置いているわけではないことくらいは表情を見ればわかるわ。貴方、あの子の前では自然に笑っているもの」 フレアが何を言いたいのかわからない。 「でもね、事実を隠したまま彼を傍に置こうとするのはやっぱり欺瞞で、貴方のエゴだわ。 貴方がそれを続ける限り彼は貴方の友とは成り得ない。貴方は彼を保護したのではなく、クールーク国海軍の、捕虜にしたのよ」 トロイは、ようやくフレアが何を言っていたのかを理解した。 「ナギは貴方を本気で慕っている。彼を傷つけないで」 彼女は責めていたのだ。ナギの友人として、トロイ自身を。 「私がどうして監視に気付いたか教えてあげるわ。きっかけは偶然だったけど貴方の差し金だって確信したのは指摘しようとしたとき、あの子が笑ったからよ」 トロイは何も言わなかった。フレアも口を閉ざした。 しばらくはただ無言の時だけが過ぎていった。 「貴方は……結局彼をどうしたいのかを、もう一度よく考えるべきだわ」 答えを求めていたわけではないのかもしれない。 フレアは去っていった。ただ断罪に近い忠告を残して。 ******** 誰もいない無人の部屋。 元々は一組の机と椅子しか存在しなかった部屋。 今は頻繁に訪れるナギのために新たに椅子と茶卓が設置され、卓上にはナギが拘って買ったらしい空色の花柄茶器が二つとどこからか摘んできたと思われる花が飾られている。 部屋の造りは本国にあるトロイの正規の執務室とは比べるべくもなく質素だが、ここの空気はそこよりずっと暖かなものだった。 トロイは一人、その部屋に佇んだ。 ゆっくりといつものように執務机に腰掛ける。 鍵を開け、引き出しから読みかけの、一枚の紙切れを取り出す。 ほぼ自動的に、淡々とその字面を追いながら、トロイの心は迷宮を彷徨う。 ナギは知っている。監視されていることを。 僕の身元とか。 何か持っていたとか。 記憶に執着していなかったナギ。それでも執拗に繰り出された質問。彼は家族や故郷を知りたくて尋ねたわけではなかったのかもしれない。 あの質問は記憶を取り戻すためと言うより、自身が本当に記憶を取り戻しても良いのか、何故自分を監視する必要があるのか、それを遠回しに問いかけていたのではないだろうか。 フレアの弾劾の声が蘇る。 彼をどうしたいかだと。 最初はよくわからなかった。 見張ることが見守るを含み始めたのはいつのことだったのか。明確な境目はわからない、もしかしたらそんなものはなかったのかもしれない。 小さなことの積み重ねが、少しずつ自分を変えた。 その変化が良いことなのか悪いことなのか戸惑っている間に、彼は人の心の隙間に度々力尽くで押し入ってきて、いつの間にか勝手に居座ってしまった。 なんとなくそれを追い出すことのできないまま、次第に違和感がなくなり、それが日常になり。 彼が、とても大切なのだと気付いた。 ……ずっと、傍にいてくれればいいと思うようになった。 そして、今は―――――― 長々と連ねられた文書の最後には結論としてたった一行、こう綴られていた。 |
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『イルヤで捕らえた捕虜の引渡しを要請する』 手の中にある書状がくしゃりと耳障りな音を立てた。 |
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本当に望むものは何だろうか 結論は、もう出ていた |
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| to be continue… |